第69話 エーテル銀の目的
ユリアスは深く息を吸い込み、静かに話し始めた。
「すべては、二百年前に起きた悪魔大戦に端を発します。その戦いで現れた悪魔――インフェルナス。王国は数年前から悪魔崇拝教団《インフェルナス教》の動きを追っていました。そしてついに、彼らがインフェルナスの復活計画を進めていることを突き止めたのです」
彼女の言葉に、俺は思わず眉をひそめた。
「悪魔復活の計画……それとエーテル銀がどう関係している?」
ユリアスは力強く頷く。
「エーテル銀は、その復活儀式に必要な魔法陣の材料のひとつです。悪魔の力を媒介し、現世に呼び戻すために不可欠なものとされています」
「なるほど……でも、なぜその任務に第二王女であるあなたが出向く必要がある?」
その問いに、ユリアスの表情が一瞬曇った。だがすぐに、しっかりと俺を見つめ、言葉を選びながら続ける。
「……それは……今は言えません。ただ、王家としての責任を果たすためだと思ってください。そして、正直にお話しします」
俺は不満げに目を細めたが、それ以上は問い詰めなかった。
そのとき、ダニエルが心配そうに声を上げた。
「お嬢様、本当にお話ししてもよろしいのでしょうか? これ以上、秘密を明かす必要は――」
しかし、ユリアスは首を横に振り、ダニエルの言葉を遮った。
「ダニエル、もういいのです。私たちが信頼を得るには、まず自分から信じなければなりません」
そう言うと、ユリアスは俺の方に向き直り、深々と頭を下げた。
「バンダナさん、本当に申し訳ありません。あなたを巻き込む形になってしまって……」
その言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。
「なぜ俺に謝る? 俺がここにいるのは、自分の意志だ」
ユリアスは申し訳なさそうに顔を伏せ、静かに口を開いた。
「実は……そうとも言えないのです」
俺は目を細めた。
「どういうことだ?」
ユリアスは一度息を整え、また静かに語り始めた。
「最初にお会いした時、私たちはグラングリオンのチェルシー様に、今回の件を相談するために向かっていました。しかし、その動きを教団に察知され、途中で襲撃を受けてしまったのです。その時、私たちを助けてくださったのが……あなたでした」
俺は少し驚いたが、黙って続きを促す。
「そしてその後、チェルシー様から魔法陣のことを詳しく教えていただきました。その際に……チェルシー様からあなたのことを伺ったのです。それで、冒険者ギルドの受付で一芝居を打って……どうしても協力をお願いしたいと思ったのです」
俺は呆れたように息を吐いた。
「そうだったのか……それで、チェルシーは俺のことをどう言ってたんだ?」
ユリアスは一瞬目を逸らし、小さな声で答えた。
「……『お人よしのお節介だから、きっと手伝ってくれる』と……」
「……やられたな」
俺は苦笑いを浮かべる。だが、どこか腑に落ちるものもあった。
「だいたいのことは分かった。それで……ベルギアは王国騎士団の副隊長だよな? じゃあ、アルカナとダニエルさんは?」
アルカナが一歩前に出て、肩をすくめながら答えた。
「私は王都魔道団の副隊長、アルカナ・バウンゼンよ。黙っていてごめんね」
「なるほど……それでテラ級の魔法が使えたのか」
俺は納得しつつも、彼女の実力に改めて感心した。アルカナは柔らかい笑みを浮かべる。
「それで、ダニエルさんは?」
俺が視線を向けると、ダニエルは答えるのをためらった様子だった。しかし、ユリアスが穏やかに促す。
「ダニエル、バンダナさんには正直に話しましょう」
ダニエルは軽くうなずき、深呼吸をして話し始めた。
「私の名前はダニエル・ブライライト。王国直轄の特殊部隊《影守部隊》の元隊長です」
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