第68話 決着
「これが私の切り札よ……! とどめよ――テラ級・オーロラ・フロストストーム!」
アルカナが杖を高く掲げると、極寒の嵐と極光が広間を覆い尽くし、壮麗な氷の刃がエアリアルワイバーンに降り注いだ。
美しい――だが、同時に凄まじい冷気がワイバーンの巨体を容赦なく凍結させていく。
「……これで決まったはず……」
アルカナは魔素を使い果たし、杖を握りしめたまま膝をついた。
エアリアルワイバーンは完全に氷像と化したかに見えた。しかし次の瞬間――
パキ……パキパキッ……
氷の表面から、微かなひび割れる音が響き始めた。
「ま、まさか……」
「ぐおおおおおおお!」
凄まじい咆哮とともに、エアリアルワイバーンは凍りついた巨体を一気に解放する。氷の破片が四方に飛び散り、冷気の奔流が空間を蹂躙する。だが、それ以上に衝撃的だったのは、ワイバーンの体を包み込む癒しの光だった。
「嘘でしょ……ギガヒールだなんて……!」
アルカナが絶望の声を漏らす。
ワイバーンの傷はみるみる塞がり、再び戦闘態勢へと移っていく。だが――俺は諦めなかった。
「させるか!! 『ものまね――オーロラ・フロストストーム』!」
再び巻き起こる氷の嵐が、エアリアルワイバーンを容赦なく襲う。俺は間髪入れず、次々とスキルを叩き込む。
「『ものまね――神速』!」
「『ものまね――七星発勁拳』!」
「『ものまね――氷結乱撃斬』!」
連続する猛攻がワイバーンの動きを封じ、確実に追い詰めていく。そして――
「……これでとどめだ! 『ものまね――限界突破! 二刀流魔法剣――ギガ・アイス』!」
氷の魔力を纏った二刀が、空間すら凍りつかせるほどの冷気を放つ。
俺は渾身の力でエアリアルワイバーンの胸元を貫くように振り下ろした。
「……ぐおおおお……!」
エアリアルワイバーンは断末魔の咆哮を響かせ、その巨体がついに崩れ落ちる。
もはや、動く気配はなかった。
広間に静寂が訪れる。
「……勝った、のか?」
誰かが呟いた。
仲間たちの安堵の息が聞こえ、緊張が一気に緩んでいく。
俺たちは――ついにエアリアルワイバーンを討伐したのだ。
「エリア・メガヒール!」
俺は最後の力を振り絞り、回復魔法を唱える。温かな光が広がり、仲間たちの傷が癒されていった。
硬く張り詰めていた空気が、少しずつ和らいでいく。
「みんな、俺たちは勝った! さぁ、アイテムを回収して奥の部屋で休もう」
ベルギアがワイバーンの残骸から慎重にアイテムを回収し、俺たちを促す。
広間の奥にある安全な空間へ移動し、ようやく座り込んだとたん、戦いの疲れが一気に押し寄せてきた。
しばらくして――
ダニエルが静かに立ち上がり、ユリアスの前に跪く。
「お嬢様、戦闘中は数々のご無礼をお許しください。大変失礼いたしました」
その言葉に呼応するように、ベルギアとアルカナも跪いた。
「よいのです」
ユリアスは穏やかな声で答えた。
その顔には、どこか安堵の色が浮かんでいる。
「実は少し、嬉しかったのです。戦闘中に名前で呼ばれて。本当のパーティーの仲間として接してもらえた気がして……」
「姫様……」
ベルギアがうつむきながら呟く。
その敬意と感情が、静かに滲み出ていた。
俺はその様子を見て、ふと疑問を口にする。
「ちょっと、いいかな? その“姫様”って……?」
ユリアスは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに覚悟を決めたように俺を見つめ、静かに言った。
「バンダナさん、今まで隠していて申し訳ありません。実は……私はユリアス・グランバール」
「……グランバール王国の?」
「ええ。私は、グランバール王国の第二王女です」
「はぁ!? 第二王女が、どうしてこんな危険な冒険を?」
驚きを隠せない俺の声に、ユリアスは小さく微笑みながら続けた。
「……エーテル銀を求めている理由を、今ここでお話しします」
ユリアスの真剣な眼差しが、部屋の全員に向けられる。
自然と、俺は息を呑み、彼女の次の言葉を待った――。
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