第67話 タオ流奥義
前と同じように、広大な部屋の中央には薄青い結晶が散りばめられた大地が広がり、その中心に、巨大な竜が鎮座していた。
だが――見間違いだろうか。以前見たブルーワイバーンよりも身体が一回り大きい。その蒼い巨体は、まるで星明かりのように輝いていた。
俺は迷わず鑑定スキルを発動する。
「鑑定! ……星輝晶獣『エアリアルワイバーン』」
その結果に、背筋が凍りつく。
「ベルギア、あれはブルーワイバーンじゃない。『星輝晶獣・エアリアルワイバーン』だ」
ベルギアが驚愕の声を上げる。
「なんだと……ワイバーンの最上位種じゃないか! こんなものが、ここに現れるなんて聞いていない!」
エアリアルワイバーンがこちらに気づいたのか、咆哮を上げた。
「ギォオオオ!」
その声と共に、圧倒的な威圧感が部屋全体を包み込む。思わず息を呑むが、俺はすぐに仲間たちの様子を確認した。
ユリアス、ダニエル、アルカナ、ベルギア──誰もひるんでいない。
「一度、引くぞ! みんな、転移石を使え!」
ベルギアの指示に従い、俺たちは一斉に転移石を取り出し、起動する。
だが――何も起きない。
「どういうことだ!」
ベルギアが焦りを滲ませる中、アルカナが険しい表情で叫ぶ。
「イレギュラーよ! 極まれにダンジョン内で発生する現象で、転移や逃走ができなくなることがあるの。運が悪いわ!」
その言葉に、一瞬の沈黙が落ちる。
だがすぐに、ベルギアが剣を構え直し、力強い声で言い放つ。
「やるしかない……! 全員、覚悟を決めろ!」
俺たちは互いの顔を見合わせる。恐怖がないわけではない。だが、ここまで共に戦ってきた仲間への信頼がある。
そして何より、もう逃げ場はない。
俺も二刀を構え、決意を込めて告げた。
「全力でいくぞ。相手は強敵だが、俺たならやれる!」
エアリアルワイバーンが大きな翼を広げる。その輝く鱗がきらめくたびに、圧力が増していく。
俺たちは戦闘態勢に入り、最上位の敵に挑む準備を整える。
エアリアルワイバーンの咆哮が収まり、その鋭い目が俺たちをじっと見据える。
その眼光には明確な敵意と威圧が宿っており、薄青い結晶が散りばめられた大地がわずかに揺れた。巨体が動くたびに、部屋全体が重圧に包まれているようだ。
ベルギアが剣をぎゅっと握りしめ、声を張り上げた。
「みんな、準備はいいか! ここで奴を倒さなければ、生きて帰る道はない!」
ユリアスが拳を構え、不敵な笑みを浮かべる。
「やるしかないわね。どうせ後ろに引く場所なんてないんだから」
ベルギアが一歩前に出ると、鋭い指示を飛ばした。
「全員、フォーメーションを維持しろ! 俺が奴の注意を引く。攻撃のタイミングを見極めて動け!」
剣を掲げ、力強く叫ぶ。
「いくぞ! 『鉄壁』『挑発』!」
その瞬間、エアリアルワイバーンの巨大な翼が大きく羽ばたき、部屋中に鋭い風が吹き荒れた。
「くそっ、羽ばたくだけでこれかよ……!」
さらにエアリアルワイバーンが翼を高速でクロスさせると、強烈な衝撃波がベルギアの防御姿勢を揺るがせた。
「ぐっ……! 『鉄壁』が破られたか……!」
ベルギアが苦々しい声を漏らしながら、ユリアスに視線を送る。
ユリアスはわずかに頷き、静かに口を開いた。
「もう隠す必要もないでしょう。ベルギア、アルカナ、ダニエル──私の名において許可します」
ベルギアが目を見開き、力強く返答する。
「御意、姫様。わかりました」
そして再び剣を構え、エアリアルワイバーンに向けて高らかに宣言した。
「よく聞け! 我が名はベルギア・ユバイゼン。王国騎士団副隊長にして聖騎士なり! 受けてみるがよい、このユバイゼンの剣を!」
エアリアルワイバーンが再び咆哮を上げ、巨大な翼で鋭い衝撃波を放ってくる。
だがベルギアは動じることなく前進し、盾を高く掲げて叫んだ。
「『聖壁』!」
黄金の光がベルギアの盾を包み込み、周囲には小さな光の粒子が舞う。
同時に放たれた衝撃波が聖壁にぶつかり、激しい音と共に弾き返された。
「さすがベルギア……!」
ベルギアの聖壁が衝撃波を弾き返すと、エアリアルワイバーンは一瞬たじろいだものの、すぐに巨大な体を揺らして構え直した。その動きからは、次なる攻撃の準備が進んでいる気配が伝わってくる。
「奴が何か仕掛けてくるぞ!」
俺は叫びながら周囲を見渡した。仲間たちも息を詰め、戦闘の構えを取る。
「ギャオオオ!」
エアリアルワイバーンは咆哮とともに、竜巻のような猛烈なブレスを吐き出した。
「全員、聖壁の後ろへ!」
ベルギアの声に即座に反応し、俺たちは聖壁の後ろに飛び込む。襲いかかる暴風の圧力に耐えながらも、何とかやり過ごした。
しかし、ワイバーンはすぐに反対方向へ向きを変え、尻尾を高く振り上げる。
「鑑定……『轟尾撃』。尾が轟音を立てながら砕くような強烈な一撃――まずい、『轟尾撃』がくる!」
俺の叫びに全員が即座に防御姿勢を取る。だが、凄まじい轟音とともに振り下ろされた尻尾は、大地を揺るがしながらベルギアの聖壁を粉砕した。
「くそっ、聖壁が破られた……!」
ワイバーンが勝ち誇るように吠え、さらに追撃のため尻尾を振り上げる。
「追撃がくるぞ! ユリアスを守れ!」
ベルギアが盾を構え、ユリアスを庇うように前に出る。
その瞬間、俺は反射的に魔素を練り上げ、叫んだ。
「『ものまね』――『聖壁』!」
光の壁が瞬時に展開され、迫りくる轟尾撃を受け止める。凄まじい衝撃が全身に響くが、壁は何とか持ちこたえた。
「まさか……お前が聖壁を使えるなんて!」
ベルギアが驚愕の声を上げるが、俺は苛立ち交じりに怒鳴る。
「ベルギア、気を抜くな! お前のほうが俺より強い聖壁を作れるはずだろ! いまこそ、魔素を解放しろ!」
俺の言葉に呼応するように、ベルギアの体がまばゆい光に包まれる。盾が虹色に輝き、小さな光の粒子が舞い始めた。
「うおおお! 『神聖壁』!」
彼の咆哮とともに、強固な防御壁が展開される。エアリアルワイバーンのブレスが直撃するが、『神聖壁』はびくともしなかった。
「これで時間を稼げる!」
ベルギアの声に、俺たち全員の士気が高まる。
「みんな、戦いはこれからだ! ここを乗り越えれば、必ず勝てる!」
俺たちはそれぞれ武器を構え直し、反撃の狼煙を上げる準備を整えた。
「いくわよ。『ギガ・アイスストーム』!」
アルカナが杖を掲げると、冷気の嵐が部屋全体を包み込む。無数の氷の粒子が空間を舞い、エアリアルワイバーンの巨体を凍らせていく。
ワイバーンは冷気により動きが鈍り、体力を奪われていった。
「いいぞ、アルカナ! 風属性の反属性である氷属性で攻めろ!」
ベルギアの声が響き、全員が一斉に動き出す。
「『ギガ・アイスストーム』!」
「『魔拳――アイスナックル』!」
「『氷結乱撃斬』!」
俺は再び冷気の嵐を放ち、ユリアスは冷気を纏わせた拳を叩き込み、ダニエルは猛スピードで氷刃を繰り出す。
「どうだ……?」
攻撃は確かに効いている。しかし、決定打には至っていなかった。
「出し惜しみはするな! 防御は俺に任せろ! お前たちは攻撃に全力を注げ!」
ベルギアの檄が飛ぶ。
「わかったわ! バンダナ、少し時間を稼いで! 私、最大の魔法を放つから!」
アルカナの杖に急速に魔素が集まり、眩い光が溢れ出す。
「『ギガ・アイスストーム』!」
「『ものまね』――『ギガ・アイスストーム』!」
俺の放つ冷気の嵐が連続でエアリアルワイバーンを包み込む。その巨体が一瞬たじろぐ。
「私もいきますぞ! 『限界突破――神速――氷結乱撃斬』!」
ダニエルが限界突破を発動させ、凄まじい速度でワイバーンの翼を切り刻む。剣閃が氷の軌跡を描き、やがて翼はぼろぼろに崩れ落ちた。
「……これで飛べまい!」
エアリアルワイバーンはもがきながらも羽ばたけず、地上戦を余儀なくされる。しかし、その代償として、ダニエルは限界突破の反動で膝をつき、動けなくなっていた――
「お、お嬢、今です!」
ユリアスが拳を構え、全身の魔素を集中させる。拳が虹色に輝き、強烈なエネルギーを放ち始めた。
「ダニエルの努力を無駄にはしない……! 『タオ流奥義――七星発勁拳』!」
虹色の拳がエアリアルワイバーンの胸元に直撃し、星の輝きのような爆発が巻き起こる。
ワイバーンの咆哮が部屋中に響き渡り、その巨体が大きく揺れ――ついに地に伏した。
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