第65話 出発の準備
談笑をしながら、食事が一通り終わると、ユリアスがにっこり微笑んで尋ねた。
「バンダナ様、いかがでしたか? お口に合いましたでしょうか」
俺は軽く頷いて答える。
「はい、美味しかったです」
その後、場が一瞬静寂に包まれた。すると、ダニエルが少し身を乗り出して話し始める。
「では、バンダナ様――本題に移りましょう。先ほどは、過剰な敬語は不要とのことで。ありがとうございます」
「気遣いは慣れてるだけです。さあ、話を聞かせてください」
ダニエルの表情が引き締まる。
「私たちがエーテル銀を欲している理由は、お察しの通りです。そして、冒険者ギルドでお会いした際、あなたが竜鱗のコートを身に着けているのを見て、確信しました。――ブルーワイバーンを討伐されたのではないかと」
俺は反応を見せず、黙って様子を伺った。
「無言は肯定と受け取ります。そこで、お願いがあります。私たちのブルーワイバーン討伐に、同行していただけませんか? 報酬は1回の討伐につき白銀貨2枚、さらにエーテル銀が採れれば、追加で白銀貨7枚をお支払いします」
その提案を聞いて、俺は少し間を置いてから口を開く。
「待ってほしい。参加するには、少し事情がある」
そして、『赤き翼』のことは伏せたまま、記憶を曖昧にされたこと、幸運にも竜鱗のコートだけを手に入れた経緯を説明した。
ダニエルは話を聞き終え、深く息を吐く。少し残念そうな表情を浮かべながら呟いた。
「そうでしたか……そんなことが起きていたとは」
その時、黙って話を聞いていたアルカナが静かに口を開く。
「それでも、彼を連れて行くべきだと思うわ。この人、並外れた魔素を持っている」
ベルギアも頷きながら続ける。
「俺も同感だ。さっきの食事で気づいたが、この人はただ者じゃない。最初は所作が普通だったが、終盤には見事に洗練されていた。動きを即座に学ぶ者は、剣の扱いにも秀でているはずだ」
ダニエルに続いて、ユリアスが真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
「バンダナさん、どうかお願いします」
その瞳には、不思議と逆らえない力があった。守ってやりたい、力になりたいと思わせる何かがある。
「……わかった。引き受けよう」
俺がそう答えると、彼らの顔にぱっと明るさが戻った。
「ところで、ダニエルさん」
俺はひとつ疑問を挟む。
「あなたとユリアスは、ブルーワイバーンのいる場所まで本当にたどり着けるのか? 蒼輝の迷宮はB級ダンジョンだ。素人では……」
その心配をよそに、ダニエルは自信に満ちた表情で答えた。
「ご安心を、バンダナさん。あの時は非常に強力な麻痺薬の影響で動けませんでしたが、お嬢様は拳聖・タオフェング様のもとで修行を積んでおり、実力は確かです。加えて、魔道具『成長補正』を使用しています。今ではBランク冒険者にも引けを取らない力をお持ちです」
彼の説明に少し驚きつつ、俺はユリアスに目を向ける。以前よりも確かに、内に強さを秘めた雰囲気がある。
ダニエルはさらに続けた。
「私も、以前はお恥ずかしい姿を見せましたが、武芸を嗜んでおります。今度は遅れを取ることはありません」
その言葉には、確かな覚悟と自信がにじんでいた。彼の身のこなしや気配からも、それは感じ取れた。
俺は静かに頷き、腰を上げた。
「……わかった。準備を整えて出発しよう」
こうして、俺たちは蒼輝の迷宮を目指し、馬車に乗り込むこととなった。
街道を進む馬車の揺れの中、俺はこれから始まる戦いに思いを巡らせていた。
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