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第64話 再会

 

 タオフェングとの話を終えて部屋を出ると、受付のあたりで言い争う声が聞こえた。


「エーテル銀の入手はまだでしょうか? 私たちは急いでいるのです!」


 声のする方に目を向けると、どこかで見覚えのある少女と老人が受付嬢に詰め寄っていた。


「えっ、バンダナ様ですか?」


 少女がこちらを振り返り、驚いたように声を上げる。


「覚えていますか? ユリアスです」


 突然名前を呼ばれ、俺は面食らった。


「お嬢様、あまり突然ではバンダナ様が困ってしまいますよ。お久しぶりでございます。バッタム商会のダニエルでございます。あの時はお礼も申し上げられず、申し訳ございませんでした」


 そう言いながら、老人――ダニエルは深々と頭を下げる。ユリアスも同じように礼を取った。


「ああ、そうか……二人とも、『渓谷の森』で助けたときの」


 ようやく記憶が繋がった。

 たしか、かがやき草とベアーの肝臓を採取しに行く途中、キャンプ場で危険な目に遭っていたこの二人を助けたことがあった。


「ここでは何ですし、向こうで話しましょう」


 俺たちは空いていたテーブルに移動し、腰を下ろす。


「バンダナ様、あのときは本当にお世話になりましたのに、お礼もできず申し訳ございませんでした」


 ユリアスは真摯な表情で頭を下げた。


「いえ、あの場では誰だって助けるさ。それより……エーテル銀のことで受付と揉めていたようだが、何かあったのか?」


 俺の問いに、ユリアスは言いにくそうに目を伏せた。


「そ、それは……」


 代わりにダニエルが口を開く。


「お嬢様に代わり、私から説明いたします。実はこのエーテル銀の依頼は魔導省からのものですが、その取引にはバッタム商会が深く関与しております」


「なるほど、そういうことか」


 彼らがエーテル銀を急いでいた理由が、少し見えてきた気がする。


 その後、久しぶりの再会を祝して、お互いの近況を語り合った。

 ユリアスたちは俺を夕食に誘い、滞在先まで手配してくれるという。宿を決めていなかった俺は、その申し出を素直に受けることにした。


「では、今晩の夕食でまた」


 俺たちはそう約束し、それぞれの道へと別れた。


 約束の場所は、以前カナベルと泊まったことのある、貴族御用達の高級宿だった。

 用意されていたのは最上級の部屋で、贅を尽くした調度品に囲まれている。


 しばらく部屋でくつろいだ後、宿の中にあるレストランへ向かった。


 案内された席には、ユリアスとダニエルに加えて、初対面の男女が座っていた。俺の姿に気づいたダニエルが、微笑みながら手招きする。


「バンダナ様、よくぞお越しくださいました。こちらへどうぞ」


 席に着くと、ダニエルが紹介を始めた。


「こちらのお二人はベルギアさんとアルカナさんです。本日は折り入ってお話があり、同席していただいております」


「そうですか。初めまして、バンダナです」


 俺が挨拶すると、年配だが屈強な体格の男性が頷きながら応じた。


「俺はベルギア。元騎士だが、今は冒険者ギルドに登録せず、フリーで活動している」


 次に、年配の女性が微笑んで挨拶を返す。


「私はアルカナ。魔導士よ。同じくフリーで動いているわ。よろしくね」


 挨拶を交わしながら二人を観察すると、その雰囲気からただ者ではないことが伝わってくる。

 特にアルカナからは、強大な魔素の気配が漂っていた。


「さあ、挨拶も済みましたし、食事を始めましょう」


 ユリアスが店員に合図を送ると、美味しそうな料理が次々と運ばれてきた。

 どれも見た目も香りも素晴らしく、さすがは高級レストランだ。


 会話はたわいもない話題が中心で、和やかな雰囲気で進んでいく。

 だが俺は、あることに気づいた。


 俺以外の全員が、食事の所作において異様なほど洗練されていたのだ。

 ナイフやフォークの使い方、姿勢、口元の動作――どれも優雅で、まるで貴族のようだ。


 その所作に気圧され、少し気後れした俺は、自然な動きで彼らを観察しながら『ものまね』を駆使し、無理なく真似ることにした。

 それなりに形になってきたようで、内心ほっとする。


 だが食事が進むにつれて、俺の中で彼らへの警戒心と興味が、じわじわと膨らんでいった。


 この会食の真の目的は、一体何なのか――

 それを見極めるためにも、気を抜くわけにはいかなかった。



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