第63話 悪魔崇拝教 インフェルナス教
冒険者ギルドに戻ると、いつもの賑やかな光景が広がっていた。
受付の掲示板をふと見上げると、まだ『エーテル銀の採取依頼』が掲げられている。
「どういうことだ……?」
レオニクスたちは確かにエーテル銀を持っていったはずだ。
それにもかかわらず、依頼が未完了のままということは――ギルドに報告していない、もしくは納品していないということか。
「何を企んでいるんだ……?」
考えが堂々巡りを始めたそのとき、受付嬢のリエナが俺を呼び止めた。
「あ、バンダナさん。こちらへどうぞ」
彼女に案内され、奥の部屋へと通される。
静かな空間でしばらく待っていると、一人の女性が現れた。
鋭い目つきの獣人で、鍛え抜かれた体つきが一目で戦士と分かる。
「突然すまないだわさ。ちょっと、蒼輝の迷宮での出来事について聞きたいだわさ」
落ち着いた声に、俺は若干の警戒を覚える。
「えっと……」
「あっ、自己紹介がまだだっただわさ。私はギルド長のタオフェングだわさ」
ギルド長――?
そんな人物が直々に話を聞きにくるとは。
「聞きたいのは『赤き翼』についてだわさ」
その名を聞いた瞬間、胸がざわつく。
だが、迂闊に話すのは得策ではない。
迷宮で受けた「忘却の薬」のことを思い出し、記憶が曖昧なふりをする。
「正直、蒼輝の迷宮に入る前のことは覚えているんですが、それ以降の記憶がどうも……」
タオフェングはしばらく俺を見つめた後、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「これは試験紙だわさ。舐めてみるだわさ」
少し戸惑いながらも、彼女の真剣な表情に押されて舐める。
すると、紙がじわじわと青く染まっていった。
「やっぱりだわさ。あんたは忘却の薬を飲まされているだわさ」
「……忘却の薬?」
「そうだわさ。『赤き翼』に関わった者たちは、迷宮の秘密や彼らの行動を隠すために忘却の薬を飲まされるだわさ。それだけならまだいい方で、大抵は……命ごと消されるだわさ」
「……命ごと?」
「そうだわさ。レオニクスたちは組織の一部であり、目的のためには手段を選ばない連中だわさ。
あんたが生きているのは、運が良かったからだわさ」
背筋が寒くなる。
彼らの目的は何なのか。
そして、エーテル銀をどうするつもりなのか――
俺は知らぬ間に、新たな危機に巻き込まれていたのかもしれない。
タオフェングは俺のマントを指さした。
「あんたの様子を見る限り、ダンジョン・ボスのブルーワイバーンを倒したようだわさ」
「そうなると、エーテル銀を入手できた可能性が高いだわさ。他の冒険者たちがボス部屋に入る順番待ちをしていたという目撃情報は一件だけ。つまり、運よくあんたたちが手に入れたと考えられるだわさ」
「なるほど、確かにそうかもしれない。ブルーワイバーンを倒せるほどのパーティーなら、一度で諦めず、エーテル銀が出るまで何度でも挑戦するのが普通だろうからな」
俺の推測に、タオフェングの耳がピンと立つ。
「正解だわさ。あんた、腕も頭もいいだわさ」
「ところで、『赤き翼』とは何者なんだ? それに、エーテル銀は何のために必要としているんだ?」
問いかけると、タオフェングの表情が一段と真剣になった。
「そうだね……あんたには話しておいたほうがよさそうだわさ」
彼女は少し間を置いてから続けた。
「『赤き翼』は、『悪魔崇拝教インフェルナス教』のメンバーだという情報が、つい昨日入っただわさ」
「……悪魔崇拝教?」
「そうだわさ。悪魔崇拝教――インフェルナス教とは、200年前に起きた悪魔大戦で現れた悪魔、インフェルナスを崇拝する邪教団だわさ」
「インフェルナスは、大賢者チェルシー、拳聖タエコ、そして忍者カゲロウによって封印されたけど、その復活を企むのがインフェルナス教だわさ」
「大賢者? それに忍者……?」
俺が聞き返すと、タオフェングは一瞬言葉を詰まらせた。
そして、慌てて両手で口を覆い、しどろもどろになりながら言う。
「そ、そこは内緒だわさ! とにかく、話せるのはここまでだわさ!」
「ふむ……となると、エーテル銀はその悪魔復活の準備に使われるということか」
俺が静かに言うと、タオフェングは神妙な面持ちで頷いた。
その仕草が、この話の重大さを物語っていた。
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