第62話 隠し通路
目が覚めたとき、俺は冷たい石床の上に横たわっていた。周囲は薄暗く、冷たい空気が肌を刺す。
身体を起こすと、鈍い痛みが頭を貫き、ぼんやりした意識が徐々に覚醒してくる。
「……ここは?」
視界がはっきりし始めると、石造りの天井が目に入った。しばらくして、記憶が断片的に蘇る。
「レオニクスたちは……どこに行った?」
立ち上がり、状況を整理する。最後に覚えているのは、レオニクスが俺に薬を仕込んだ水を飲ませ、眠らされたことだ。
しかし、不思議なことに、忘却の薬の効果は感じられなかった。
「薬の効果が切れたのか? いや、俺の『全耐性』と『自然回復促進』のスキルが働いたんだな」
胸ポケットを探り、転移石を確認しようとする。
しかし、そこには何もなかった。
「転移石がない……持ち去られたか」
周囲を見回すが、部屋の中には誰の姿もない。ここで待っていても状況は変わらない。
まずは装備を整えよう。
ブルーウィングの鱗を空間収納に仕舞い、竜鱗のコートに着替える。少しだけ気が引き締まった。
「さて……どうする?」
部屋の奥には、一つの重厚な扉。その先には螺旋階段が続いている。
俺は慎重に扉を開け、一歩踏み出した。
「『地図捜索』と鑑定を……」
スキルを発動すると、視界に周囲の構造が投影される。
この階段は地上へと繋がっているようだったが――
足元に、微かな違和感。
「……魔素?」
階段の付近に集中して目を凝らすと、壁際に僅かだが魔力の流れを感じた。光の粒子のようなものが揺らめいている。
「これは……隠し通路か?」
『鑑定』スキルを使い、詳しく調べる。すると、浮かび上がった文字が示した。
「『隠匿の扉』 開放条件:特定の魔力波動を触媒とする」
「隠匿の扉……ここに何かが隠されているってことか」
魔素の波動を読む。その波動は――どこかで感じたことがある。
……そうだ。ブルーワイバーンが放っていた魔力に似ている。
俺は空間収納からブルーウィングの鱗を取り出し、そっとかざした。
すると、鱗が淡い光を放ち始め、壁の魔素が反応するように動き出す。
「どうやら、この鱗が鍵らしいな」
鱗を使って魔力を注ぎ込むと、壁の一部がゆっくりと音を立てて開いていく。
その先には――何がある?
期待と警戒を胸に、俺は慎重に扉をくぐった。
部屋に足を踏み入れると、蒼い光が辺りを満たす。
壁や天井は無数の水晶で覆われ、幻想的な輝きを放っていた。
その中心。
台座が一つ。
その上に鎮座しているのは――黄金に輝く鉱石。
しかし、それはただの金属ではなかった。
表面が微かに揺らぎ、まるで生命を宿しているかのような神秘的なオーラを放っている。
俺は慎重に手を伸ばし、『鑑定』スキルを発動する。
「エーテル金:エーテル銀の上位素材で、空間や次元を扱う特殊な魔法陣の基盤として使用される」
「空間や次元を扱う……? いったい、どんな魔法陣なんだ?」
用途に興味が湧いたが、用途は鑑定でも分からなかった。
ただ――この鉱石が非常に貴重で、重要なものであることは理解できる。
俺がエーテル金を慎重に手に取った瞬間、不思議な感覚が頭を包み込んだ。
そして――
どこからともなく、静かで力強い声が響く。
「賢き強者よ。正しき道を望む」
短い言葉だったが、その響きは胸の奥に深く刻まれる。
『正しき道』とは何を指しているのか。
今の俺には分からない。
それでも――この声は敵意ではない。むしろ、導きを示しているように思えた。
「正しき道か……」
その言葉を噛み締め、俺は静かに『エーテル金』を空間収納へ収める。
視界に輝く水晶の光景を一度だけ振り返り、静かに部屋を後にした。
「さて……地上に戻ろう」
螺旋階段を上りながら、俺は心の中で決意を新たにする。
このエーテル金が、どんな未来を切り拓くのか――
今はまだ分からない。
それでも、俺には進むべき道がある。
それを信じて、俺は再び地上を目指した。
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