第61話 君がいいやつだからだ
「いくわよ、『ギガ・アイスストーム』」
ダリアナが力強く詠唱すると、冷気の嵐が部屋全体を覆った。氷の粒子が舞い散り、ブルーワイバーンの巨体を凍てつかせていく。
「やったか?」
一瞬の静寂に希望が灯る――が、すぐに打ち砕かれた。
ブルーワイバーンが鋭い咆哮を上げ、翼を広げると、衝撃波を伴って氷を砕き散らし、再び宙へと舞い上がった。
俺たちが陣形を整え直す間もなく、ヤツは大気を裂くように翼を仰ぎ、複数の真空刃を放ってきた。
「『鉄壁』!」
レオニクスが盾を掲げて前に出る。だが、防ぎきれなかった真空刃がエリナスを直撃する。
「きゃああー!」
エリナスが悲鳴を上げて倒れ込む。
「バンダナはエリナスの回復を! レイアード、ヤツを錯乱させろ! ダリアナ、もう一発でかいのを頼む!」
レオニクスの指示に、俺はすぐさま応じた。
「『メガ・ヒール』!」
癒しの光がエリナスを包み、彼女の表情が安堵に変わる。
その間に、レイアードが素早く距離を詰めた。
「『瞬地』、『 黒閃突』」
鋭い一撃がブルーワイバーンの右足を貫く。巨体がバランスを崩し、地面に叩きつけられた。
「今よ! 『ギガ・アイスストーム』」
「俺も、『ものまね・ギガ・アイスストーム』」
ダリアナと俺、二重の冷気が戦場を包み、ブルーワイバーンの動きを止める。
「もういっちょ! 『ものまね・ギガ・アイスストーム』」
三重の氷嵐が重なり、ついにブルーワイバーンの身体が完全に凍りついた。
「今だ、とどめを刺す!」
レオニクスが剣を振り上げ、全力の一撃を叩きつける。
「『大地斬』」
地を揺るがす剣撃が氷像を粉砕し、無数の破片が四散した。
ブルーワイバーンの姿は、もはやどこにもなかった。
静寂が訪れ、地面には討伐の証となるアイテムが現れる。
「やったぞ……これで終わりだ」
レオニクスが息をつき、俺たちは勝利の余韻に包まれる。
全員の顔に笑みが広がり、疲労感が喜びに変わっていく。
「みんな、よくやった!」
レオニクスの言葉に皆がうなずき、奥の部屋へと進んだ。
そこには、まばゆい光を放つ戦利品が並んでいた。
「見てくれ、これが討伐のアイテムだ」
レオニクスが一つひとつ説明を始める。
「まず、ブルーウィングの鱗。武具の素材に使えて、風属性の耐性がつく。
そして、竜鱗のコート。これも風属性耐性と回避力が上がる優れものだ。
最後が……目標のエーテル銀!」
「おおおお!」
歓声が上がる。ついに目的の品を手に入れた。
あとは転移石を使って帰還するだけ――そのはずだった。
「バンダナ、すまないが話がある」
レオニクスが真剣な声で言った。
その表情に、どこか違和感が走る。
「エーテル銀は俺たちに譲ってほしい。その代わり、ブルーウィングの鱗と竜鱗のコートは君のものだ。これは白銀貨五枚分に相当する。悪い話じゃないと思うが?」
提案自体は理にかなっていた。新参の俺にとっては、むしろ好条件かもしれない。
「なぜ、今それを言う?」
問いかけると、レオニクスの口元がわずかに歪んだ。
「それは、君がいいやつだからだ」
その言葉に、不穏な感覚が背筋を走る。
「本当はアイテムを全部持って、俺たちだけ転移石で帰るつもりだった。君ひとりを、ここに残してな」
「……俺を残すだと?」
「そうさ」
レオニクスの表情が、冷たい笑みに変わった。
「さっき飲んだ水に、眠り薬と忘却の薬を混ぜておいた。次に目覚めるときには、ここでのことは何も覚えていないだろう。……悪いな。お別れだ」
全身の力が抜けていく。
「くっ……」
膝から崩れ落ち、視界が急速に暗転していく。
抗う術もなく、俺はそのまま意識を手放した――
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