第57話 レオニクスとの出会い
しばらく休んでいると、声をかけられた。
「ちょっと、君は……受付にいた冒険者か?」
振り返ると、冒険者ギルドで見かけたBランクパーティー『赤き翼』の男性だった。
「ああ、君だ。間違いない。随分早くここに着いたな。一人で挑んでるって言ってたけど、どうやってそんなに早く到着した?」
「最短ルートを選んだだけだ」
「最短ルート? マジかよ……。受付で聞かなかったのか? 最短ルートは罠や魔獣が多いって。大抵の奴らは迂回してここを目指すぞ」
「聞いたよ。でも、そのほうが面白そうだったからな」
「はは……お前、相当ぶっ飛んでるな……」
俺が眉をひそめると、彼は慌てて手を振った。
「悪い、冗談だよ。それより自己紹介させてくれ。俺は『赤き翼』のリーダー、レオニクスだ」
彼は胸を張り、誇らしげに名乗ると、続けて言った。
「俺たちは最深部を目指す予定なんだが、どうだ、一緒に行かないか?」
その申し出に、俺は少し悩んだ。ソロで動くつもりだったが、パーティーに加わるのも一つの手だ。
「まあ、急がなくてもいい。俺たちはここで一泊するから、もし気が向いたら声をかけてくれよ」
「ああ、わかった」
レオニクスはそう言うと、仲間たちの元に戻り、食事の準備を始めた。
その様子を見ながら、俺はどうするべきか少し考え込む。
「……俺も食事の準備を始めるか。悩んでても腹は減るしな」
そう言って、俺は手際よくバーベキューコンロをセットする。今日は少し豪華だ。焼くのはゴールデンベアーの肉。
「ジュー、ジュー……」
肉が焼ける音とともに、香ばしい匂いが辺りに漂い始める。脂が滴り、火に触れるたびに小さな炎が上がる。
いい感じに焼けてきたところで、女将さん特製のタレをたっぷり塗り、両面をこんがりと焼き上げた。
一口噛みしめると、外はカリッと香ばしく、中は驚くほど柔らかい。肉汁が口いっぱいに広がり、甘辛いタレが絶妙に絡む。
「旨い!」
思わず声が漏れる。
焼きたての肉をパンに挟んで頬張っていると、周囲から視線を感じた。
気づけば、数人の冒険者がこちらを覗き込むようにして言った。
「うまそうだな。少し分けてもらえないか? いくら払えばいい?」
俺は一瞬考えた後、周囲にも聞こえるように大きな声で答える。
「ただでいいよ。ただし、他にも腹を空かせてる奴がいたら、そいつらにも分けてやってくれ」
「ほ、本当か?」
「もちろん」
男は驚きつつも笑顔で「ありがとう」と言い、パンを受け取った。その様子を見ていた他の冒険者たちも、次々と「俺にも!」と声を上げ始める。
俺は笑いながら、用意していたパンを次々と分けていった。
そんな中、一際目立つ男が近づいてきた。
レオニクスだ。
彼はニヤリと笑いながら言う。
「俺たちにも分けてくれないか?」
一瞬驚いたが、彼の気さくな笑顔に安心し、快くパンを渡す。
レオニクスは一口食べると、満足そうに頷いた。
「やっぱり、俺たちの目に狂いはなかったな」
そう言ってから、さらに続ける。
「一緒に行こうぜ」
差し出された手を、俺は少し戸惑いながらも握り返す。
「負けたよ。よろしくな」
「こちらこそ、頼むよ」
レオニクスは満足げに笑い、パンを仲間たちの元へ持ち帰った。
その背中を見送りながら、俺は自分の肉を焼き直し、次の冒険に備えて気持ちを引き締めるのだった。
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