第56話 迷宮への挑戦
馬車に揺られ、途中で数回のキャンプを挟み、ようやく三日目の朝、『蒼輝の迷宮』の入り口に到着した。
同じ馬車に乗っていた冒険者によると、これでもかなり早く着いたほうらしい。
俺は馬車を降り、迷宮前にある受付の建物へ向かい、迷宮の入場料を聞いて、思わず顔をしかめた。
「金貨三枚か……高いな」
受付の男は慣れた様子で笑いながら言う。
「まぁ、ここはBランクダンジョンだからな。それに、このダンジョンは一攫千金を夢見る奴らが多い。お前はソロみたいだし、気を抜くなよ。ここじゃ気の緩みが即、命取りになるからな」
忠告を受け、俺は改めてこのダンジョンの危険さを実感する。
「わかった。忠告、ありがとう」
金貨三枚を支払い、受付を済ませる。建物を出ると、目の前に迷宮の入口が広がっていた。
荷物を確認し、装備や魔法道具に不足がないことを確かめてから、『蒼輝の迷宮』へと足を踏み入れる。
中に入ると、その美しさに思わず息を呑んだ。
薄暗い空間に、蒼白い光が神秘的に広がっている。壁や床は青く輝く鉱石で覆われており、まるで夜空の星が地上に降りてきたかのようだった。
「すげぇな……」
目の前の光景にしばし見入った後、地図捜索を使用する。
このスキルのおかげで、迷宮全体の細部までは分からないが、大まかな構造や現在地を把握できる。
「よし、これなら進めそうだ」
自信を胸に、俺はさらに奥へと足を進めた。
しばらく進んだところで、前方から魔獣の気配を感じる。
現れたのは、グレートオーク二体とトロール三体のグループ。
「こんな序盤でこれかよ……まぁいい、試し撃ちだ!」
俺は構えを取り、詠唱を開始する。
「メガ・サンダーストーム!」
次の瞬間、蒼白い稲妻が迷宮内を駆け巡る。
轟音とともに雷が降り注ぎ、魔獣たちは咆哮を上げながら痙攣し、蒸し焼きになっていく。
グレートオークの一体は燃え尽きる寸前に膝をつき、もう一体はそのまま後方に吹き飛ばされた。
トロールたちは耐久力があるが、それでも一瞬で黒焦げになり、崩れ落ちていく。
やがて、静寂が戻った。
「……威力が上がってる?」
明らかに、魔法の威力が以前より高い。
その原因を考えていると、ふとヨルダンの言葉を思い出す。
「『高い魔素伝導性を兼ね備えた防具』……そういうことか」
確かに、魔素が身体を通っていく感覚が、以前よりも滑らかで自然だ。
防具の力を実感しながら、俺は気を引き締め、さらに地下へと降りていく。
「シュッ!」
壁から何かが勢いよく発射され、空気を切り裂く音がした。
「また罠か。毒矢ね」
俺は冷静に矢が放たれた方向を確認する。
先ほど石を投げて反応を引き起こした床がトリガーだったようだ。
「俺は鑑定スキルがあるから回避できるけど、他の奴らはどうやって突破してるんだ?」
迷宮内を歩きながら、ふとそんなことを考える。
罠や仕掛けの種類は実に多彩で、毒矢以外にも落とし穴や爆発系のトラップまであった。
それらを回避しつつ、時折襲ってくる魔獣を倒しながら、最短ルートを進んでいく。
「確かに、魔獣が以前よりも強い気がする。でも――問題ない」
『ものまね』スキルのおかげだ。
このユニークスキルは、魔法や戦技を模倣して使用できる特性を持つ。そのため、魔獣相手にも余計な体力や魔素を消耗せずに対処できる。
「改めて思うけど、『ものまね』は本当に万能だな……」
途中、他の冒険者たちに何度か遭遇した。
彼らは皆パーティーを組み、それぞれの役割を分担しながら迷宮に挑んでいる。
「やっぱり、パーティープレイっていいよな……」
VR・MMORPGで遊んでいた頃の記憶がふと蘇る。
あの頃は、俺も仲間たちと協力して戦っていた。
だが今の俺は、ソロプレイ。そして、ジョブは『ものまね士』という変わり種だ。
「他の冒険者たちから見たら、俺のジョブってどう思われてるんだろうな……」
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、すぐに振り払う。
ここで気を抜くのは命取りだ。
そのまま慎重に進み続け、ついに地下五階に到達する。
この階層はセーフティーエリアとなっており、魔獣や罠の心配がない。
エリア内にはすでに多くの冒険者が腰を落ち着け、空いたスペースにテントを張ったり、焚き火を囲んで談笑しながら食事をとっていた。
俺も周囲を見回し、空いているスペースを見つけて手早くテントを設営する。
そして、ようやく安堵の息をついた。
「さて、休憩するか」
周囲の賑わいを背に、俺は少しだけ肩の力を抜いた。
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