第53話 装備屋・ヨルダンの店
王都グランバールに到着すると、その壮麗さに圧倒された。
「凄いな……グラングリオンの街も大きかったけど、ここグランバールは別格だな」
「だろ? ここで手に入らない物はないって言われてるくらいだ」
カナベルが自信満々に笑う。
石畳の道、整然と並ぶ豪奢な建物、行き交う人々――どれもが活気に満ち、洗練されている。
街のスケールと雰囲気に見惚れていると、カナベルが俺の袖を引いた。
「さ、着いたぞ。ここが宿だ」
目の前にそびえる建物は、宿というよりもはや屋敷に近い風格だった。
その佇まいに圧倒され、思わずカナベルに尋ねる。
「……ここ、高くないか?」
「ああ、高いぞ。食事付きで一泊、大銀貨三枚――ざっと三万円ってとこだな」
「はは……宿屋『木漏れ日』の六倍かよ……」
「まあ、貴族御用達だからな。それに、冒険者でもBランク以上じゃないと泊まれない。だが、それだけの価値はあるぞ。ここには“風呂”があるんだ」
「風呂……!? マジか!」
この世界に来てからというもの、水浴びで済ませるのが常だった俺にとって、その言葉はまさに福音だった。
意気揚々と宿へ入り、風呂と食事を存分に堪能する。
「ふぅ~……いい風呂だった。それに、食事も抜群に旨いな」
「気に入ってもらえてよかったよ」
カナベルが満足そうに笑い、杯を傾ける。
「さて、叙爵式は明後日だけどな。明日は行きつけの装備屋に付き合ってくれ。式で使うマントを新調するんだ。バンダナの分も一緒に買うから、金はいらん」
「そりゃ助かる。ありがとな」
カナベルの気遣いに感謝しながら、俺たちは宿での夜をゆったりと過ごした。
翌朝。
「着いたぞ。ここが装備屋だ」
カナベルが立ち止まり、堂々とした古風な建物を指差す。
「俺の装備もここで揃えたが、一つだけ注意点がある」
「注意点?」
少し身構えて尋ねると、カナベルが真剣な表情で口を開いた。
「ああ。この店の店主はドワーフでな。腕は確かなんだが、職人気質で口が悪い。こだわりも強いから、気に入らない相手には物を売らないんだ。俺も近衛兵副隊長になって、ようやく買わせてもらえたくらいだ。今回はマントだから大丈夫だと思うが……」
「そりゃまた、ずいぶんと癖のある店主だな……」
そんな話を聞かされれば、自然と警戒心も高まる。
俺はカナベルの後ろをついていき、様子を伺いながら店に入った。
店内は質実剛健な作りで、受付の机と奥へ続く扉があるだけ。
カナベルが受付の呼び鈴を鳴らすと、奥の扉がガチャリと開き、立派な髭をたくわえたドワーフが姿を現した。
「あいよ……ん? おお、カナベルじゃねえか」
「久しぶりだな、ヨルダン」
「噂は聞いてるぜ。男爵になるんだってな。正装用のマントが欲しいんだろ? こっちへ来な」
ぶっきらぼうだが、手際の良い動きで受付の机を跳ね上げると、ヨルダンは奥へ案内した。
俺はカナベルの後に続きながら、少し緊張して足を踏み入れた。
奥の部屋に入ると、目の前の光景に息を呑んだ。
壁一面に陳列された剣や盾、その他にも多種多様な武器や防具が所狭しと並んでいる。
それぞれが一点物のような精巧な作りで、ヨルダンの職人としての腕前を物語っていた。
「お前の寸法は控えてあるからな。だいたいこんなもんでいいだろ」
ヨルダンは手際よく、数点のマントを机の上に広げる。
カナベルはその中の一つを手に取り、肩に羽織った。
「それで……お前さんは何の用だ?」
ヨルダンが俺を一瞥し、無骨な声で尋ねる。
その視線は、まるで品定めでもするかのようだった。
「ヨルダン、彼はBランク冒険者のバンダナだ。俺の付き添いで来たんだが、彼にもマントを頼みたい」
カナベルがそう言うと、ヨルダンの目が鋭く光った。
俺の全身をじろじろと眺め、まるで内面まで見透かそうとするような眼差しを向けてくる。
「ふん……面白い奴だな。剣を見せてみろ」
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