第52話 Bランク登録と王都への誘い
「次に、商業ギルドでもやらかしているね」
チェルシーが目を細めて俺を見る。
「そこのオリオンが出した難題を、あっさりと解いたそうじゃないか。聞いた話では、それはAランク職員の試験問題だったそうだよ。その結果、オリオンが商業ギルドにお前をスカウトしようかと検討中さ」
「そ、そうですか……」
俺は気まずく答える。
「最後は錬金術ギルドさ」
チェルシーの声が一段と強まる。
「お前さん、魔素棒の試験を受けたそうじゃないか。あれを全部立てることができるのは、Aランク職員相当の実力だよ。だからカーチスもお前さんに目をつけてる。さあ、どうするつもりだい?」
「どうするって……?」
「落とし前をつけてもらうよ」
チェルシーは腕を組み、俺を真っ直ぐに見据える。
「各ギルド長があたいに許可を求めてきたのが、このざまだよ。で、お前さんはどうするつもりなんだい?」
「俺か……」
少し考え込む。
「そうだな……自由でいたい。Aランクの冒険者になれば待遇は良いが、ギルドや王都の要請に従わないといけない。商業ギルドに入れば金を儲けられるが、その一方で他の人の利益を奪うことになる。錬金術で薬を作れば人を助けられるが、それを利用しようとする者も出てくるだろう。どの道も、人間の欲というものが絡んでくる。だから、俺はあまり表に出ず、陰ながら手助けをする立場でいたい。そういう意味で、自由でいたいんだ」
俺の言葉が静かに響き、場の空気が一瞬静まる。
「お前さんたち、バンダナの話を聞いてどう思う?」
チェルシーがギルド長たちに視線を向ける。
「あたいは、自分たちのことしか考えていなかったことに気づかされたよ」
その言葉に、ギルド長たちも次々と頷く。
「つい商人は損得で物事を考えてしまう。バンダナさんの言葉を聞いて、恥ずかしくなりました……」
オリオンが頭を下げる。ガッサムとカーチスも同調するように頷いた。
「冒険者ギルドとしては、バンダナをAランクにせず、Bランクにとどめることにする」
「商業ギルドとしても、スカウトはしません」
「錬金術ギルドも同意です」
次々と出される結論を受けて、チェルシーが口を開いた。
「やれやれ、ようやく落ち着いたね」
肩をすくめながら言う。
「これからは、あたいに相談なんてしないでおくれよ。バンダナのことは、お前さんたちで直接交渉しな。あたいはもう関与しないから」
ギルド長たちは申し訳なさそうに頷き、ようやくこの場が収まる。
俺も長いやり取りから解放され、ほっと息をつく。
「Bランク登録おめでとうございます」
カトリーナが満面の笑みで言った。
「ありがとう」
俺も軽く笑顔を返す。
「そういえば、カナベルさんから伝言を預かっています。近衛兵厩舎に来るようにとのことです」
「ああ、分かった。ありがとう」
俺はカトリーナに礼を言い、近衛兵厩舎に向かった。
「バンダナ、来てくれたか」
厩舎の前でカナベルが手を振りながら出迎える。
「どうしたんだ?」
軽く挨拶を交わすと、カナベルがにこりと笑った。
「昨日、王都から使者が来て、正式に男爵となったんだ。これも、バンダナのおかげだよ」
「やったじゃないか! おめでとう!」
俺も心から祝福の言葉を口にする。
「ありがとう。それでな、王都で叙爵式があるんだ。バンダナも一緒に来ないか? 王都を案内してやるよ」
突然の誘いに少し迷ったが、しばらく考えた末に同行することを決めた。
「分かった。一緒に行こう」
「よし、決まりだ! 準備をしておいてくれ」
宿に戻り、しばらく留守にする旨を伝えて宿代を清算する。その後、街を歩きながら旅のための準備を整えた。
食料、テント用品、その他の必要な道具を購入し、最後にカナベルと王都行きの馬車に乗り込む。
二人を乗せた馬車は、徐々に街の喧騒を離れ、王都へと続く道を進んでいった。
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