第50話 豪華な花火
俺たちはもう一度、ダンスを始めた。
「やり返してやろうぜ。ただし、ダンスでな」
俺がそう言うと、チェルシーは頷き、口元に挑戦的な笑みを浮かべた。
「『ものまね』」
俺はスキルを発動し、彼女の動きを完璧にトレースする準備を整える。
この感覚は――そうだ。
水花火を作った時と同じだ。彼女の一挙一動が手に取るようにわかり、自然とシンクロしていく。
音楽に合わせて二人で踊り始めると、空気が変わった。
まるで一糸乱れぬダンスが一枚の絵画のように繰り広げられる。
チェルシーの軽やかで優雅な動きに、俺が力強さと柔軟さを加え、二人の動きが一体化していく。
「すごい…なんて美しいんだ」
貴族たちの中から、感嘆の声が上がる。
その光景に触発され、他のペアたちは次第に踊りを止めていった。
そして、最後まで踊り続けたのは俺たちと……ガーナのペアだけだった。
「…まだだよ」
ガーナが焦りの色を浮かべる中、俺たちはさらに動きを磨き上げる。
回転、ステップ、優雅さと力強さが絶妙に交わり、ついにガーナたちは踊りを諦めたように足を止めた。
会場に残ったのは、俺たちだけ。曲の終わりに合わせ、チェルシーと息ぴったりのポージングを決める。
音楽が止むと同時に、会場全体が大きな拍手に包まれる。
その音はどこまでも広がり、貴族たちの賞賛が次々と飛び交う。
「素晴らしい!」
「見事だ!」
その中には、陛下の拍手も混じっていた。静かに、しかし確かな賞賛を送るその姿が印象的だった。
「やったな、チェルシー」
「そうだね…最高の気分だよ」
俺たちは、陛下に向かって深く一礼をし、誇らしい気持ちを胸にその場を後にした。
テーブルに着き、飲み物で喉の渇きと疲れを潤す。
会場の興奮が少しずつ落ち着き始めると、祝砲の水花火が打ち上がる。
その鮮やかな光に誘われ、皆が一斉にテーブルを離れ、バルコニーの方へと移動する。
「綺麗だな…」
懐かしい花火の光景。もとの世界の色とりどりな花火とは少し違うが、やはり美しい。
それだけは変わらない。
「もとの世界が懐かしいかい?」
チェルシーの優しい声が耳に届く。
「ああ、懐かしいよ。でも、今はこっちの世界も悪くないって思えてきた。これも、チェルシーやカナベルたちのおかげだ」
「そうかい、良かったね」
そんな穏やかなムードの中、ふと背後に気配を感じて俺は振り返った。
「あっ!」
そこには、ガーナが立っていた。
「何しに来たのさ、ガーナ。さっきのダンスの負け惜しみかい?」
チェルシーの声が冷ややかに響く。
「ふん、そうじゃないわよ」
ガーナは鼻を鳴らし、挑発的に言った。
「あなたが作った水花火を笑いに来たのよ」
「なんだと?」
チェルシーがすぐさま反論しようとするが、それをガーナが遮る。
「今回の祝砲は、隻眼の魔女であるチェルシー様が責任者なんでしょ? もっと派手で壮大な水花火を期待してたけど、意外と地味ね」
ガーナの言葉に、俺の胸が怒りでざわつく。
まるで、一緒に作った水花火が粗末なものだと言われているようで、我慢できない。
「なに言ってんだよ。これからが本番だ」
その瞬間、俺の言葉に応えるように、中型の水花火が連続して打ち上がり始める。
徐々に、その派手さに会場のボルテージが上がる。
そして、ついに終盤に差し掛かると、大型の花火が夜空に咲き誇り、歓声が一気に高まる。
「スチュワート陛下、万歳!」
声が屋敷の外から響き渡る中、俺は最後の一発、超大型の水花火を打ち上げる。
それまでにないほどの豪華な花火が夜空を彩り、まさに一面が輝く。
ガーナの表情が引きつり、怒りと悔しさで固まるのがわかった。
隣のチェルシーは、口元に満足そうな笑みを浮かべている。
「どうだ? これでも地味だって言うのか?」
俺は挑発的にガーナを見つめた。
彼女は悔しそうに顔をそむけ、何も言えなくなっていた。
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