第5話 初めての『ものまね』
二人との会話が終わると、スコットが小さな台を両手で抱えて部屋に入ってきた。
その上には、小さな袋と銀色に輝くペンダントが置かれている。
「バンダナ様、旦那様よりこちらを賜っております。どうぞ、お納めください」
スコットが丁寧に差し出す台から袋を受け取り、中を覗く。ぎっしりと詰まった金貨が輝いていた。
「金貨…!?」
「左様でございます。こちらには金貨二十枚が入っております。それに、このペンダントが住民プレートでございます」
金貨二十枚――確か、一枚が十万円相当だと聞いた。つまり、二百万円分だと…!?
異世界に来ていきなりこれほどの大金を手にすることになるとは、正直驚きを隠せない。
住民プレートを手に取る。表面には精緻な彫刻が施されていて、見た瞬間に貴重なものだとわかる。
これで正式にこの世界の住民として認められたということか。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
深々と礼を述べると、スコットが優しく微笑んだ。
俺たちは公爵の屋敷を後にし、カナベルとエドガーに案内されながら近衛兵厩舎へ向かう。
次の展開に胸を高鳴らせながら、一歩ずつ足を進めた。
近衛兵厩舎に戻ると、カナベルから剣の基本を教わった。
構え方、振り方、重心の置き方――どれも聞くだけなら簡単そうだが、実際にやると全然うまくいかない。
剣は思った以上に重く、手が滑ってバランスを崩しそうになる。
「うーん、難しいな…」
思わず肩を落とすと、カナベルが笑いながら励ましてくれた。
「まぁ、初日はみんなこんなもんさ。一か月もすれば剣もまともに振れるようになる。それと、筋トレは欠かさずやれよ。やるのとやらないのでは剣の扱いや動きに大きな差が出るからな」
彼の言葉に少し気持ちが軽くなったそのとき、エドガーが何かを思い出したように興奮気味に言った。
「そういえば、バンダナのジョブは『ものまね士』だよな? カナベルを真似してみたらどうだ?」
その提案にカナベルも乗っかる。
「おお、それいいじゃないか! 俺を真似てみろ!」
そうだった。俺のジョブは『ものまね士』。サイモンは「鑑定してから使え」と言っていたな。
二人の期待に応えようと、心の中で『鑑定』と念じる。
すると、カナベルの動きが頭の中に鮮明に浮かび上がった。
次に『ものまね』と唱えると、突然体が軽くなり、カナベルの動きが自然に再現できるようになる。
「すげえ! これならいける!」
剣を振る感覚が、今までのぎこちなさが嘘のようにスムーズになっていく。
俺の剣とカナベルの剣が何度もぶつかり合い、火花を散らす。その様子を見て、エドガーも感心したようにうなった。
「バンダナ、なかなかやるじゃないか。俺の動きについてくるとは驚きだ。しかし…これならどうだ!」
カナベルが突然剣を構え直し、力強く声を張り上げる。
「『戦技・疾風斬』!」
彼の動きが一瞬で加速し、剣の軌跡が見えないほどの速度で襲いかかってきた。
「ぐあっ!」
一撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
体中に鈍い痛みが走り、立ち上がろうとしても手足が震えて力が入らない。
カナベルが手を差し伸べながら笑う。
「どうだ、これが『戦技』だ。お前、なかなかいい動きしていたぞ。でも、まだまだこれからだな!」
差し出された手を掴もうとするが、震える体では力が入らない。
「…す、すみません。体が動かなくて…」
「ははっ、無理するなよ。初日でここまでやれるとは大したものだ。今日はゆっくり休んで、また明日やろうぜ」
そう言ってカナベルが肩を貸してくれた。
まだ始まったばかり。試練は山積みだが、これを乗り越えた先には、きっと新しい自分が待っているはずだ。
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