第49話 ペア対決
エドワード公爵の屋敷に着くと、案内役の使用人に導かれ、控室へ通された。
「まだ時間があるようだね。ドレスを着たままだと窮屈さ。ちょっと庭園に行こう」
チェルシーがそう言うので、俺は彼女をエスコートし、廊下を歩き出した。
廊下を進むたびに、人々の視線がこちらに集まる。
ある者は小声で「隻眼の魔女だ」と恐れを含む口調で噂し、またある者は「晩餐会で一緒に踊ってほしい」と願うような視線を向ける。
チェルシーが俺をパートナーに選んだ理由が、少しだけわかる気がした。
彼女は注目を集める存在であり、その負担を分かち合える相手が欲しかったのだろう。
そんな中、庭園に出ると、先客がいることに気づく。そこには一組の男女がおり、女性は美しいエルフだった。
そのエルフを見た瞬間、チェルシーが顔をしかめ、俺の腕を引っ張ってその場を去ろうとする。
だが、その動きに気づいたエルフの女性が声をかけてきた。
「おや、これは珍しい。隻眼の魔女ことチェルシーじゃないか。また仲間を犠牲にして名声を得るつもりなの? 今度はそのパートナーが犠牲になるのかな」
その冷ややかな言葉に、チェルシーの瞳が鋭く光る。
「ふん、相変わらずだね、ガーナ。お前さんには関係ないことさ」
二人の間に緊張が走る。
険悪な空気の中、今度はガーナの隣にいた男性が俺に向かって挑発的な口調で話しかけてきた。
「おい、お前。晩餐会でのダンスは陛下の御前で披露されるんだぞ。せいぜい恥をかかないようにな」
初対面で失礼な物言いだ。だが、俺も負けていない。
「君は初対面なのにずいぶんと失礼なヤツだな。ガーナさんのパートナーのようだけど、まずは自分の礼儀を学んだらどうだ? 人のことを気にする前に、自分のことを心配した方がいいぞ」
俺の返答を聞いたチェルシーが、口元に満足げな笑みを浮かべる。
「ガーナ。パートナー選びで失敗したようだね。そんな態度じゃ、ダンスでも……ふっ、心配じゃないかい?」
ガーナの顔は見る見るうちに怒りで歪む。何か言い返したそうに口を開きかけるが、俺たちはそれを無視してその場を後にした。
庭園を後にして廊下を進むと、チェルシーが俺に小さな声で話しかけてくる。
「バンダナ、ありがとう。おかげでスッキリしたよ」
そう言いながら、彼女は自然な仕草で俺の腕にしがみついてきた。
その温かさと柔らかさに少しドキリとしたが、俺は何も言わず、彼女をエスコートし続けた。
スチュワート・グランバール陛下は静かに言葉を紡がれた。
「予はグラリオンの繁栄と領民の平和を願い、これに尽力するものである。皆の者、よくぞ大義を成した。今宵は英気を養うがよい」
陛下の言葉に続いて、晩餐会が華やかに幕を開けた。テーブルには豪華な料理が運ばれ、どれも絶品だ。
デザートを食べ終え、同席する貴族たちと談笑していると、音楽が変わり、ダンスの時間が始まった。
会場の雰囲気が一変し、貴族たちはそれぞれのパートナーと共にダンスの輪に入る。
「さぁ、バンダナ、行くよ」
チェルシーが手を差し出す。俺は頷き、彼女をエスコートしてダンスフロアへ向かった。
「ちょっと待ってくれ」
そう言い、俺は周囲を見渡し、ダンスが上手そうな男性に目を留める。
鑑定を使い、その動作を『ものまね』する準備した。
「よし、分かった。チェルシー、行こう」
曲に合わせて動き出すと、自然と輪の中に溶け込む。
貴族たちの視線がこちらに集まり、「見事だ」「美しい」といった賞賛の声が聞こえる。
しかし、しばらくすると、一組のペアがこちらに接近してきた。
そこにいたのはガーナと彼女のパートナーだ。
「なかなかやるわね」
ガーナが挑発的に微笑む。曲に合わせて回転した瞬間、彼女のパートナーがチェルシーに意図的とも思えるほどぶつかってきた。
「申し訳ない」
形だけのお辞儀をするが、チェルシーはその衝撃で足をくじいてしまったようだ。
顔が苦痛に歪む。
「いたっ…やってくれたね」
彼女の言葉に、俺は即座に動いた。
チェルシーのそばに膝をつき、彼女の右足をそっと自分の腿に乗せる。
「バ、バンダナ…こんな皆の前で恥ずかしいじゃないか」
彼女は顔を赤らめるが、そんなことはお構いなしだ。
俺は回復魔法を唱えた。
「『メガ・ヒール』」
優しい光がチェルシーの足首を包み込む。
瞬く間に痛みが引いていくのがわかる。
「…うん、見事だね」
チェルシーは小さく微笑み、俺の顔を見上げた。
その様子を見た周囲から、再び感嘆の声が上がる。
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