第48話 俺がパートナー?
武器屋と防具屋で装備のメンテナンスを済ませ、食料や道具もひと通り買い揃えた俺は、宿へと戻った。。
久しぶりにベッドに横になると、いつの間にか眠ってしまい、気づけば夕方になっていた。
その時、扉を叩く音が響いた。
「バンダナ、いるかい?」
チェルシーの声が聞こえる。俺は扉を開け、彼女を部屋の中に招き入れた。
「突然押しかけてすまないねぇ」
「宿にまで来るなんて、一体どうしたんだ?」
「実はねぇ……明日は祝砲を上げて陛下をお出迎えするだろ? その後、晩餐会があるんだけど、そこで祝砲の責任者であるあたいがダンスを踊ることになっててさ」
「ふーん、それで?」
「そのダンスのパートナーを、お前さんにやってほしいんだよ」
「……はぁ?」
思わず変な声が出た。
「俺はダンスなんてできないぞ。そもそも踊ったことさえない。無理に決まってる」
チェルシーはニヤリと笑う。
「そんなことだろうと思ったよ。でもさ、お前さんには『ものまね』があるじゃないか。あたいのダンスを真似すればいいさ」
「いやいや、そう簡単な話じゃ――」
「明日の午後一で屋敷に来な。いいね!」
俺が返事をする間もなく、彼女はそう言い残して部屋を出て行った。
ぽかんとする俺をよそに、廊下での足音はどんどん遠ざかっていく。
「無茶振りもいいところだ……」
俺は呆れながらベッドに倒れ込んだが、チェルシーの勢いに押されて断れなかった自分に、思わず笑ってしまった。
チェルシーに言われたとおり屋敷に向かうと、使用人に案内され、広間へ通された。
部屋の中では、商人や洋服屋らしき人々が慌ただしく動き回っている。
その人混みの奥に、ドレスをまとったチェルシーの姿があった。
「どうだい、バンダナ」
チェルシーはくるりと回って、その姿を見せてきた。
彼女は普段から細身で、俺より少し背が低い程度だが、出るところはしっかり出ていて、ウエストは引き締まっている。いつもの快活な印象とは違い、洗練された気品が漂っていた。
「き、綺麗だ……」
つい声が漏れる。
「な、なに言ってんだい」
顔を赤らめてそっぽを向くチェルシー。
「本当だ。とても綺麗だよ。俺には釣り合わないくらいだ」
「そんなことないさ」
チェルシーは照れ隠しのように手を振り、「さぁ、取り掛かりな」と話を切り替える。
彼女が合図をすると、周りの人たちが一斉に俺に取り掛かり、採寸を始めた。
いつの間にか着替えさせられ、気づけばタキシードをまとっていた。
……俺の意思はどこへ?
その様子を見たチェルシーは、俺の姿を上から下まで眺め、にやりと笑う。
「なかなか似合っているじゃないか」
俺も鏡を覗き込むと、驚きを隠せなかった。
若返ったこの体――かつてゲームで使っていたキャラクターの姿でいるのを、改めて実感する。
自分で言うのもなんだが、モデルのように整った容姿に仕上がっていた。
「そうだな……これならいける」
準備が整うと、チェルシーをエスコートし、二人で馬車に乗り込んだ。
行き先は、エドワード公爵の屋敷だ。
馬車の中で、チェルシーは小さく息をつきながら言った。
「パートナーを引き受けてありがとな」
俺は彼女の横顔を見ながら、そっと「いいってことよ」と応えた。
屋敷が近づくにつれ、胸が高鳴るのを感じていた。
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