第45話 チェルシーからの依頼
ゴールデンベアーとの死闘を終えた俺は、その後に現れたウルフやオークも軽く退け、無事に冒険者ギルドへと戻ってきた。
ギルドの扉をくぐった途端、受付にいたカトリーナさんが俺の姿を見つけ、心配そうな表情で駆け寄ってくる。
「バンダナさん、大丈夫だったんですか!? 渓谷の森でゴールデンベアーが目撃されたって、報告がいくつも入ってきてるんです。 あれはグレートベアーの上位種で、さらにその上のシルバーベアーよりも危険って言われてます」
言葉を畳みかけるように続けながら、カトリーナさんは俺の体をじっと見つめた。
「だから今、ギルドではB級以上のパーティーを集めて討伐計画を立ててたんですけど……もしかしたら、バンダナさんにも声がかかるかもしれませんね」
カトリーナさんの真剣な表情に、俺は思わず肩をすくめた。
「ん? ゴールデンベアーならもう倒したぞ」
「えっ……?」
彼女の目が大きく見開かれる。
「ゴールデンベアーを単独で討伐……ですか? 単独の討伐なんて、A級冒険者でも滅多にいないのに。本当だというなら、何か証拠はありますか?」
半信半疑の視線が向けられる。まあ、疑うのも無理はない。
「さっさと見せちゃいなよ」
背後から声が響いた。振り返ると、いつの間にかチェルシーが俺の後ろに立っていた。彼女は腕を組み、面白がるような笑みを浮かべている。
「わかったよ」
俺は、空間収納を装った背負いバッグから、氷像と化したゴールデンベアーを取り出した。
ドンッ!!
突然、ギルドの床に巨大な氷塊が出現する。金色の毛並みを凍てつかせたまま、討伐されたゴールデンベアーが威圧感たっぷりに横たわっていた。
「ひっ……!?」
カトリーナさんが小さく悲鳴を上げ、思わず後ずさる。
「ははっ、バンダナ、お前さんって本当に想像の斜め上を行くよ!」
チェルシーは机を叩いて腹を抱え、大声で笑い出した。その笑いにつられるように、周囲の冒険者たちもざわめきながら笑い始める。
カトリーナさんはその声でようやく正気を取り戻し、赤くなった顔をしかめながら俺を睨む。
「バンダナさん、驚かさないでください! 本当に心臓に悪いんですから……」
「悪かったな。けど、これで証拠になるだろ?」
俺は苦笑しながら、ゴールデンベアーの氷像を押しやる。カトリーナさんは小さくため息をつきながら、しっかりと討伐記録をつけ始めた。
「あと、かがやき草が25本ある。それと、これはきらきら草っていうみたいだけど、引き取ってくれるかな?」
俺が差し出すと、カトリーナさんの目の色が変わった。
「えっ! ちょっとお待ちください!」
彼女は慌てて奥へ駆け込み、何やら確認している様子だ。しばらくして戻ってくると、興奮した表情で口を開いた。
「間違いありません! これはきらきら草です! かがやき草が満月の光を浴びた際に突然変異することで生まれる、非常に貴重な薬草なんです。 ギガ・ポーションの材料になるので、かなりの高額で取引されますよ」
「おお、それは良かったな。それじゃあ、かがやき草とベアーの肝臓を納品したから、この依頼は達成でいいな?」
「もちろんです。それに、ゴールデンベアーの討伐とその素材、それからきらきら草5本も。換金には少し時間がかかりますので、数日後に来ていただけますか?」
カトリーナさんがそう言い終えた瞬間、チェルシーが俺の腕をぐいっと掴み、強引にテーブルへと引き寄せた。
「バンダナ、ちょっと力を貸してほしいんだけどさ」
「珍しいな。チェルシーが俺に頼みごとなんて」
俺が少し驚いたふりをすると、彼女は舌打ちしながら睨んできた。
「ちぇっ、黙って聞きなよ。お前さんも知ってるだろ? あたいが今回、祝砲用の水花火を任されてること」
「ああ、知ってるよ。陛下が視察に来る時の祝典用だろ?」
チェルシーは何やら言いにくそうに視線を逸らし、うつむきながら言葉を続けた。
「実はさ……その水花火、まだ規定の数を作れてないんだよね」
「はあ?」
俺は呆れた声を出したが、チェルシーは両手を振って弁解を始めた。
「いやね、最初は余裕があったんだよ! でも色々とトラブルがあって……気がついたら、祝典は明後日。つまり明日中に完成させなきゃまずいって状況なのさ!」
「それで?」
「そこでだよ、お前さんの出番だ! お前さんなら、あたいの錬金術を真似して倍の速さで作れるだろ? それがあれば、なんとか間に合うはずなんだ」
「……なんか嫌な予感がするな。お前、学園時代の宿題も最後の最後まで放置してたタイプだろ?」
俺がそう指摘すると、チェルシーは一瞬固まり、それから苦笑いを浮かべた。
「……どうしてわかったのさ?」
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