第44話 ゴールデンベアー
「おっ、ここがいい感じかな」
テントを張るには十分な広さの窪みを見つけ、そこで野宿の準備をする。
時間も遅いので、朝食の残り物で簡単に食事を済ませると、早めに眠りについた。
「ぐふぉっ……」
夜中、低く唸るような獣の声で目が覚めた。
テントの中からそっと外の様子を伺うと、川のほとりで巨大な熊のような魔獣が水を飲んでいる。
「……あれが、グレートベアーか?」
鑑定を唱えると、視界に魔獣の情報が浮かび上がった。
「いや、『ゴールデンベアー』……?」
その名の通り、首回りが金色の毛で覆われ、まるで黄金のマフラーを巻いているように見える。
まずいな……あのサイズに加えて、並の熊とは違うオーラを感じる。
慎重に装備を整え、そっとテントから出て剣を構える。
しかし、魔獣はすでにこちらの気配を察知していた。
「ぐおっ!!」
突如、轟くような咆哮とともに、ゴールデンベアーが猛スピードで突進してきた。
「速い……くそっ!」
その巨体からは想像もつかない俊敏さに驚きつつも、間一髪でサイドステップして回避する。だが、ゴールデンベアーは即座に立ち上がり、鋭い爪を振りかざして連続攻撃を繰り出してきた。
「っ、こいつ……力も速さも桁違いだ……!」
爪と剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
「ぐおおおー!!」
雄叫びとともに、ゴールデンベアーが両手を高く掲げた瞬間――空気が裂けるような音が響き、『真空刃』が飛んできた。
「っ!」
咄嗟に両手の剣で防御するが、衝撃で後方へ吹き飛ばされる。
「ぐっ……いてて……」
地面に背中を打ちつけながらも、すぐに起き上がる。巨体に似合わない俊敏さ、そして的確な攻撃。
「くそ……カナベルとの戦いで二刀流を覚えてなかったら、今頃やられてたな……」
汗を拭いながら体勢を整え、剣を構え直す。
「よし、やるぞ……!」
再びゴールデンベアーに向き直り、気迫を込めて前進を開始した――。
「うおぉ――『魔法剣・メガ・サンダー』!!」
全身に気合を込め、剣に雷属性の魔法を纏わせる。そして、渾身の力で剣を振り抜いた。
雷が剣先から弾け飛び、閃光とともにゴールデンベアーへと襲いかかる。
魔獣は巨大な爪で受け止めようとしたが、電流が全身を駆け巡り、その動きを鈍らせた。
「この隙を逃すか!」
すぐさま追撃の一閃を放つ。
「『一閃』」
剣の一太刀がゴールデンベアーの腹を深々と切り裂き、鮮血が飛び散る。
「ぐおあお……!」
苦しげな咆哮を上げたゴールデンベアーは後退するが、次の瞬間――
両手を高く掲げると、首元の金色の毛が青く輝き始めた。
「……何か来る!」
直感が警鐘を鳴らす。
剣を構え直し、身を低くして備える。
次の瞬間、ゴールデンベアーの前脚から氷の刃が放たれる――その速度は予想以上に速い。
「『アイスカッター』か! なら……『魔法剣・メガ・ファイア』」
反射的に剣に火属性をまとわせ、迫り来る氷の刃を一刀両断する。
氷と炎がぶつかり合い、爆発的な蒸気が立ち込める。
視界が遮られる中、ゴールデンベアーの動きが一瞬止まるのが見えた。
「今度はこっちの番だ!」
すかさず詠唱を始める。
「『メガ・アイスストーム』」
極寒の竜巻が生まれ、ゴールデンベアーを飲み込む。
凍てつく風がその体温を急激に奪い、巨体の動きを鈍らせた。
「よし、もう一度……『ものまね・メガ・アイスストーム』」
再び同じ魔法を再現し、極寒の嵐を叩きつける。
立て続けの攻撃に、ゴールデンベアーの動きが明らかに鈍り始める。
さらにもう一撃、もう一撃と容赦なく浴びせる――。
ついに、ゴールデンベアーの全身が霜に包まれ、氷像のように完全に凍りついた。
「はぁ……か、勝った……」
俺は剣を地面に突き立て、肩で息をしながら呼吸を整える。
月光に照らされ、静かに佇む氷の魔獣が目の前にそびえていた――
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