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第43話 かがやき草


 遠くの方から馬の蹄の音が聞こえる。


 それは徐々に近づき、やがて親衛隊の騎士たちが姿を現した。

 

 朝焼けを背に受け、甲冑が鈍く光を反射する。

 馬の息遣いが白く立ち上り、土埃が静かに舞い上がる。


「どう! 私は親衛隊隊長、マグリットである。ユリアス嬢はご無事であるか?」


 隊長らしい威厳ある声が静寂を破る。


「マグリット、大丈夫だ」


 俺が声をかけると、馬上のマグリットがこちらを見て目を見開いた。


「バンダナか。どうして君がここにいる?」


 俺が事情を説明すると、馬車の中からダニエルが姿を現し、落ち着いた口調で言葉を継ぐ。


「マグリット様、迅速な救援ありがとうございます。お嬢様はバンダナ様のおかげで無事です。ここでは何ですので、馬車の中でお話しいたしましょう」


 ダニエルの申し出に、マグリットは頷き、素早く部下に指示を出す。


「おい、お前たち、賊を確保して監視にあたれ。私は馬車の中で話を聞いてくる」


 その後、マグリットとダニエルは馬車の中へと入っていく。


 しばらくして扉が開き、話を終えたマグリットが俺の方へ歩み寄る。


「聞いたぞ、バンダナ。不意打ちとはいえ、一人で賊を一掃するとはな。カナベルと本気でやり合った話は聞いていたが、君の腕前は想像以上だ」


「そうか? カナベルと比べれば余裕だったけどな」


 冗談めかして言うと、マグリットは一瞬驚いたように眉を上げたが、すぐに肩をすくめて苦笑する。


「まったく、君らしいな」


 俺はふと気になったことを問いかける。


「ところで、マグリット。王都の商人を救援するために、なぜ親衛隊が出動したんだ? 普通ならカナベルたち近衛兵が来るものだと思っていたが…」


「そ、それは…」


 マグリットは一瞬言葉を濁したが、視線をそらしつつ少し照れたように答えた。


「実は、エドワード公爵とバッタム商会の主人とは旧友の仲なんだ。それがあって、今回は特別に親衛隊が派遣された」

「なるほど。そういう理由か」


 俺が納得すると、マグリットはどこか安堵したように息をついた。


「ところで、バンダナ。君はどうしてここにいるんだ?」

「俺か? 渓谷の谷に行く途中だったんだよ。賊も片付いたし、あとは任せていいな?」


 テントの片付けを始めると、マグリットは何か言いたげだったが、結局口をつぐんだ。



 俺は渓谷の谷に向けて再び歩き出した――。


 渓谷の谷に着いた頃には、すっかり日が落ちていた。


 森の中は漆黒の闇に包まれ、葉擦れの音と、遠くで獣が鳴く声だけが響いている。

 降りていく道は月明かりでぼんやりと照らされ、足元に影を落とす。


「今日は満月か」


 空を見上げると、白銀の光が木々の合間からこぼれ、谷全体を幻想的に照らしている。


 慎重に地図捜索を使いながら側壁に沿って降りていくと、やがて谷底にたどり着いた。

 そこには静かに流れる川があり、月の光を受けて鏡のように輝いていた。


「なんて綺麗な水だ」


 水面が波紋を描きながら光を揺らし、その神秘的な美しさにしばし見とれる。試しに水を鑑定してみる。


「毒性なし、清らかな水……か」


 両手ですくい上げて一口飲むと、冷たく澄んだ水が喉を潤し、疲れた体に染み渡る。


「うまい」


 思わず口元がほころぶ。


 川沿いを進んでいると、側壁にぽっかりと空いた窪みを見つけた。

 その近くで、月夜に照らされて淡く輝く草が目に留まる。


「鑑定……『かがやき草』。これだ」


 慎重に根元から採取し、一つずつ空間収納へとしまっていく。


 さらに奥へ進むと、先ほどのものよりも強い光を放つ草が風に揺れていた。


「鑑定……『きらきら草』か。うーん、何に使えるんだろうな?」


 用途はわからなかったが、念のため採取しておくことにした。


「まぁ、錬金ギルドで聞いてみればいいか」


 一息つき、静寂に耳を傾けながら探索を続ける――。


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