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第42話 少女


 静寂が訪れる。


「もう、出てきて大丈夫だぞ」


 俺が優しく声をかけると、馬車の奥から少女が恐る恐る姿を現す。


「危ないところを助けてくださって、ありがとうございます。私――」

「挨拶は後にしよう。まずは、けが人の治療だ」


 少女はハッと我に返り、声を上げる。


「あっ、爺やが……!」

「安心しろ。任せておけ」


 俺はすぐに回復魔法を詠唱する。


「『メガ・エリアヒール』」


 温かな光が辺りを包み込み、気絶していた従者たちが次々と目を覚まし、起き上がる。


「皆さん、落ち着いてください。賊は倒しましたが、油断は禁物です。今のうちに、こいつらを動けないようにしておきましょう」


 俺はテントに戻り、空間収納からロープを取り出して従者たちに手渡す。

 従者たちは手際よく賊を縛り上げ、その様子を見守っていた老人が俺に深々と頭を下げる。


「危ないところを助けていただき、まことにありがとうございました」


 その穏やかな物腰や話し方は、公爵家の執事スコットに似ているように感じられた。きっと、この老人も高貴な家に仕える者なのだろう。


「皆は無事か? それにしても、賊をこのまま放置するわけにはいかないな。俺がグラングリオンまで戻って、近衛兵たちを呼んでこようか?」

「いいえ、どうかお待ちください」


 老人は手を上げて制し、馬車を指さす。


「実は先ほど、馬車の中にある魔道具で救援を呼びました。半日もあれば、助けが到着するはずです」

「そうか。それなら安心だな」


 辺りが少しずつ明るくなり始め、夜の静けさが次第に薄れていく。


 俺は周囲を警戒しつつ、従者たちが賊をきつく縛り上げるのを見守る。


 やがて賊たちが一か所に集められると、従者たちから緊張の糸が解けたのか、ほっとした表情で安堵の声が漏れ始めた。


「ああ、助かった……」

「本当に、なんとお礼を言えばいいか……」


 そんな声を聞きながらも、俺は周囲に目を配り、まだ油断はしない。もう一度、森の静寂が辺りを包んでいた――。


 地図捜索を終え、周囲に危険がないことを確認する。


「よし、俺たち以外には誰もいないようだな」


 俺はテントに戻り、空間収納からバーベキューコンロと食材を取り出す。パンとボアの肉、それに野菜を並べ、次々と肉を焼いていく。


「うん、いい感じに焼けたぞ」


 焼き上がったボアの肉をパンに挟み、女将さん特製のタレをたっぷりとつける。出来上がった特製サンドを従者たち一人ひとりに手渡す。


「どうぞ。お腹、すいただろ?」


 従者たちは驚きながらも嬉しそうにサンドを受け取り、頬張る。

 少女と老人にも差し出すと、少女が満面の笑みで口を開く。


「爺や、これすごく美味しいよ!」


 少女は口いっぱいにサンドを頬張り、頬をゆるませる。


「助けていただいたうえに、このようなご馳走まで……なんとお礼を申し上げれば良いか」


 老人は深々と頭を下げ、それに続くように従者たちも一斉に頭を下げた。


「気にしないでください。困った時はお互い様です」


 俺が笑って答えると、老人はじっと俺を見つめ、感心したように言葉を続けた。


「貴方は冒険者にしては礼儀をわきまえており、教育を受けておられるように見受けます。さぞ、名のある冒険者なのでは?」


「そんなことはないぞ。Cランク冒険者だし」


 軽く肩をすくめると、老人は少し意外そうな表情を浮かべた。


「そうですか……。ご挨拶が遅れました。私どもは王都で商いを営んでおりますバッタム商会の者たちでございます。私は補佐役のダニエルと申します」


 老人――ダニエルは丁寧に頭を下げた。そして隣の少女を紹介する。


「こちらはお嬢様のユリアスでございます」

「よろしくお願いします」


 ユリアスは上品なお辞儀を見せ、少し恥ずかしそうに笑う。


「俺の名はバンダナ。よろしくな」


 俺が挨拶を返すと、その場の緊張も和らぎ、自然と談笑が始まる。


 ダニエルが呼んだ救援が到着するまでの間、俺たちは焼肉サンドを食べながら穏やかな時間を過ごした――

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