第41話 襲撃
「ジューッ」
肉が焼ける音とともに、食欲をそそる香ばしい匂いが広がる。
バーベキューコンロ一式を持ってきて正解だったな。空間収納があれば道具や食材も楽に持ち運べて便利だ。
宿の女将特製のタレをたっぷりつけ、ボア肉の焼肉を頬張る。
「うん、美味い!」
向こうの冒険者たちが固いパンをかじりながら、こちらを羨ましそうに見ているが……気にせず食べ続けていると、一人の男が俺に近づいてきた。
「すまないが、少し肉を分けてくれると助かるんだが……」
正直、焼きすぎた分があったのでちょうどいい。
「焼きすぎてしまったんで、これをどうぞ」
男に数枚の焼肉を渡すと、彼は仲間の元へ戻り、パンの上に肉をのせて食べ始めた。
俺は満足げに夕食を終え、テントへ入り込むと、そのまま眠りにつく――
夜中。
突然、甲高い女性の悲鳴で目が覚めた。
「……今の、何だ?」
テントの隙間から外の様子を覗くと、異様な光景が目に飛び込んでくる。
馬車の周囲で何やら騒ぎが起きている。護衛のはずの冒険者たちが、馬車の従者たちを殴っているではないか。
「……どういうことだ?」
息をひそめ、様子を探る。リーダーらしき男が他の冒険者たちに指示を出している。
「もうすぐ夜が明ける。急げ!」
縛られた従者が悔しげに叫ぶ。
「くっ、俺たちをどうするつもりだ!」
リーダーの男は冷たく笑い、従者を見下ろした。
「心配するな。お前らに用はない。俺たちの目的は――そこのお嬢ちゃんだ」
その言葉に従者が反応しようとするが、男は容赦なく剣の柄で彼のこめかみを殴りつける。
「ぐっ……!」
従者は抵抗する間もなく気絶した。
「離しなさい!」
男が少女の腕を乱暴に掴み、無理やり引き寄せる。
「静かにしろ。それ以上騒げば、あの従者のように痛い目に遭うぞ」
男の冷たい声に、少女の顔には悔しさがにじみ出ていたが、力でねじ伏せられ、従うしかないようだ。
「馬車から馬を外せ!」
男が仲間に指示を出す――これ以上は待っていられない。
俺は魔法をすぐに唱えられるよう構えながら、気配を殺して男たちに近づく。
だが、少女が先に俺の存在に気づいた。
「あれは……何かしら?」
少女の声に男が一瞬、怪訝そうに振り向く。
「ん?」
その一瞬の隙を逃さず、少女は男の手を振り払い、すかさず腹に肘を叩き込む。
「ぐっ!」
呻き声を上げる男を尻目に、少女は機敏に馬車の裏へと駆け込んだ。
「この、小娘が!」
男が舌打ちし、再び少女に向かおうとする――その瞬間だ。
「今だ!」
俺は飛び出し、詠唱を開始する。
「『瞬地』!」
一瞬で男たちとの距離を詰めると、魔法を叩き込む。
「『メガ・サンダーストーム』!」
「何っ!?」
雷鳴が轟き、激しい光とともに稲妻が男たちに降り注いだ。
「ぐあぁぁっ!!」
雷の直撃を受けた男たちは、次々とその場に倒れ込む。しかし――リーダーらしき男だけは、ギリギリのところで踏みとどまっていた。
顔を見ると、焼肉を分けてやった男じゃないか。
「くっ……焼肉を分けてもらった借りがあるから見逃そうと思ったが、やってくれたな……!」
「そうか。それなら――お代わりをどうぞ」
俺は、再び魔法を発動する。
「『ものまね・メガ・サンダーストーム』!」
再び雷鳴が轟き、怒涛のような稲妻が男の体を貫く。
「ぐぁあああっ――!」
雷光が消えた後、男は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
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