第38話 国旗掲揚
翌朝、俺たちは近衛兵の厩舎で落ち合った。
清々しい朝の空気の中、ランデルがこちらに駆け寄り、嬉しそうに声を上げる。
「すごいぞ! 今日の朝一にランバート公爵から使者が来て、孤児院への今年度の給付金を昨年度の2倍に増額すると言ってきた。これもバンダナやカナベルのおかげだ!」
俺はランデルの喜ぶ顔を見て、心の底から達成感を覚えた。だが、その後ろから静かに近づいてきたランバートの声が耳に届く。
「……俺は、これからどうすればいいんだ?」
彼の表情には困惑が滲んでいる。
「恩赦を受けて、闇賭博や借金奴隷の呪縛から解放されたのはいいが、これからの自分に何をしていいのかわからないんだ」
俺はランバートの目を真剣に見据えながら口を開いた。
「何を言っているんだ。やり直すんだろう」
彼は戸惑いながら口を挟む。
「で、でも……」
ランデルがその会話に割って入った。
「それならさ、孤児院で子供たちの世話をしてみたらどうだ? 人手はいつも足りないし、錬金術師のランバートだったら学業も教えられるだろ?」
その提案に、ランバートの目に一瞬の光が宿った。
「……子供たちに俺が? 確かに、学業は教えられる。それに、簡単な錬金術も子供たちに伝えられるかもしれない……」
俺はランバートの背中を軽く叩きながら、笑みを浮かべて言った。
「言っただろう。『やるか、やらないか』だって」
ランバートはしばらく考え込んだ後、意を決したように頷いた。
「ああ、やってみるよ」
俺は笑顔で応じる。
「その意気だ」
それからランデルとランバートが少しの間話し込み、早速二人で孤児院へ向かうことになった。
その出発の直前、俺はランバートを呼び止め、袋を渡した。
「これを持っていけ」
ランバートは不思議そうに袋を見つめる。
「これは……?」
「金貨50枚だ。公爵から預かったものだよ。これで当面の生活費や、学業、錬金術に必要なものを揃えるといい」
ランバートは感慨深げに袋を握りしめると、俺に向かってしっかりと頷いた。
「……バンダナ、本当にありがとう。これは有難く使わせてもらう」
俺たちは固い握手を交わした。そして、彼らを見送った後、俺とカナベルは厩舎に向かった。
厩舎の中に入ると、人の気配がない。
俺とカナベルが困惑しながら訓練所に向かうと、近衛兵たちが集まっている。
エドガーが声高らかに言う。
「近衛兵隊長 カナベル・ベルサール男爵に敬礼!」
言葉に反応して、皆が一斉に敬礼する。
その光景を見ていたカナベルから涙が溢れる。どうやら、近衛兵たちのサプライズのようだ。
カナベルは泣きながらも、必死に敬礼を返す。
「国旗掲揚!」
グラングリオン王国の国旗が、快晴の朝空になびく。
「隊長、おめでとうございます!」
近衛兵たちがカナベルのもとに集まり、男爵への昇爵を祝福する。
皆が落ち着きを取り戻すと、それぞれの持ち場に戻った。
カナベルが俺の方へ歩み寄る。
「これもバンダナのおかげだ」
「そんなことはない、皆の力だ」
「そうだな。だが、お礼をさせてくれ」
「お礼なんていらないさ」
「いや、俺の方がやりたい。俺がお前にお礼ができるのは、これぐらいだ」
そう言うと、カナベルは剣を抜き、凛とした動きで構えを取った。
「さあ、俺と剣を交えてくれ」
彼の真剣な眼差しに、俺も背筋が伸びる思いだった。
気持ちを汲み取り、俺も剣を抜いて静かに構えを取る。
「いいだろう。受けて立つ」
互いの信頼と感謝を胸に、俺たちは静かな訓練所で剣を交えることとなった。
もしよろしければブックマークへの登録、応援をよろしくお願いします。
応援は下にある『☆☆☆☆☆』より押すことで可能です。
ブックマークも頂けると本当に嬉しいです。
作者のモチベーションになりますのでよろしくお願いします。