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第37話 決着


「次に、この手帳について説明いたします」


 俺は手帳を高く掲げ、公爵と貴族たちに見せた。


「この手帳には、各施設に給付されるはずだった予算が、どのように間引かれてトリッジ伯爵の懐に入っていたかが記されています。具体的には、3列の数値がそれぞれ施設の座標、元の予算額、そして実際に給付された予算額を示しています。間引かれた合計額は、白銀62枚に及びます。この手帳は、トリッジ伯爵夫人が持っていたバッグの隠し底から発見されました」


 会場がどよめく中、俺は続けた。


「この手帳がトリッジ伯爵のものである証拠は十分に揃っています」


 トリッジ伯爵はすかさず反論する。


「この手帳が私のものである証拠はどこにもない! 捏造したのではないか!」


 俺はランデルに頷き、彼が立ち上がった。


「俺の名はランデル。先日、この手帳を夫人のバッグから見つけた者だ」


 会場がさらにざわめく中、ランデルは続ける。


「俺は盗みのために夫人のバッグを盗んだ。そのバッグの底を物色していると、この手帳が出てきたんだ。その場にいたバンダナがその様子を目撃している」


 トリッジ伯爵は勝ち誇ったように笑い声をあげた。


「ははは! 遂にボロを出したな。その盗人ランデルを捕まえたのはマグリットだ。つまり、バンダナもその場にいたというなら、彼は盗人と共謀していたのではないか?」


 俺は冷静に反論した。


「確かに、俺はその場にいた。そしてランデルを追いかけた。だが、追跡中に商人の荷車とぶつかり、一度は取り逃がした。その後、路地裏でランデルを見つけ、もみ合っている最中に夫人のバッグからこの手帳が落ちた。その場面を確認したのは親衛隊隊長マグリットだ。俺が商人の荷車とぶつかった件も、彼が裏を取っている」


 公爵は重々しい声で話をまとめた。


「トリッジ伯爵、これ以上の言い逃れは通用せぬ。証拠は揃った。後は王都にて審議官による裁判を受けるがよい」


 トリッジ伯爵は崩れるようにその場に座り込み、肩を震わせた。

 

 チェルシーが満面の笑みで俺を見つめる。


「よくやったじゃないか。さすがはバンダナだね」


 その言葉に呼応するように、会場から拍手が巻き起こる。


 公爵が席を立ち、宣言する。


「これにて、査問委員会を閉会とする!」


 ついにトリッジ伯爵の悪事を暴くことに成功した。

 肩の荷が下りた俺は、チェルシーや仲間たちと目を合わせ、静かに頷いた。


 俺たちは査問委員会の後、自分たちの部屋に戻った。

 互いに健闘を讃え合い、束の間の安堵を感じていると、エドワード公爵が満面の笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。


「チェルシー伯爵、やりましたな!」


 公爵とチェルシーは固い握手を交わした。

 その様子を見て、俺は自然と背筋を伸ばす。


「トリッジ伯爵の汚職が明るみに出たことで、王家もようやく私が提唱していた貴族の汚職対策に重い腰を上げることでしょう」


 そう言いながら、公爵は俺に目を向ける。


「特に、バンダナ。其方の貢献には目を見張るものがあった。其方がここに来たばかりの頃は、正直頼りなさがあったが――この短期間で見違えるほど成長した。その勇気と行動力、誠に見事である」


 俺は一礼して答えた。


「ありがとうございます」


 公爵は満足げに頷くと、厳かに続けた。


「そこでだ。其方の多大なる貢献を讃え、褒美を授けよう。何なりと望むものを申してみよ」


 一瞬の沈黙の後、俺は意を決して答えた。


「それでは、ランデルとランバートに恩赦をお願いしたいと思います」


 公爵は目を細めながら俺を見つめた。


「うむ、またしても他人のためか。何故そこまでして彼らを助けようとする?」


 俺は視線を公爵に向け、静かに答えた。


「民のためです。ランデルが盗みを犯した背景には、孤児院の予算が減らされたことがあります。それが彼を追い詰めたのです。そして、ランバートも借金苦からトリッジ伯爵の誘いに乗らざるを得ませんでした。確かに、彼らの行動は正当化されるものではありません。しかし、追い詰めた要因を作ったのは政治であり、この地の領主であるエドワード公爵、あなたでもあります」


 その瞬間、チェルシーが目を見開き、慌てて割り込んだ。


「やめな、バンダナ! エドワード公爵は他の貴族とは違う。この方は常に領民を気にかけ、尽くしているお方だ。それに、公爵に対して失礼だろう。謝りな!」


 俺はチェルシーの言葉を受け止めながらも、胸を張ったまま公爵に視線を戻した。

 すると、公爵は深く息を吐き、静かに頷いた。


「チェルシー伯爵、気にするでない。実は、バンダナの言葉には一理ある。私もいつかは正さねばならぬと思っていた。其方が現れ、こうしてきっかけを作ったことは、むしろ感謝に値する。よかろう、ランデルとランバートの罪には恩赦を与え、今回の件は不問とする」


 その言葉に、俺は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」


 公爵は続けて、部屋の隅で控えていたカナベルに目を向けた。


「さて、近衛兵隊長カナベルよ」

「はい!」


「この度の一件、其方の働きも実に見事であった。その功績を讃え、其方を準男爵から男爵に推挙する。これでベルサール家も安泰であろう」


 カナベルは一瞬驚いた表情を浮かべた後、深く頭を下げた。


「本当でありますか! 大変光栄でございます!」


 公爵は笑みを浮かべながら続けた。


「うむ。近いうちに王都から使者が訪れ、其方を王都へ招くこととなろう。準備を整えておくがよい」


 こうして、水花火事件は幕を閉じた。孤児院への支援や恩赦も、全てが次なる希望へと繋がっていく。


 俺たちはそれぞれの思いで、この夜を静かに終えた。


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