第35話 役者は揃ったな
エドワード公爵の屋敷に足を踏み入れると、品の良い執事スコットが迎えてくれた。
「お久しぶりです、バンダナ様」
「久しぶりだな、スコット」
挨拶を交わした後、スコットが続けた。
「事前にカナベル様よりお話を伺っております。旦那様がお待ちです」
俺たちはスコットに案内され、公爵が待つ書斎に入った。荘厳な部屋の中で、エドワード公爵は厳然たる表情で椅子に座っていた。
「カナベルよ、水花火事件の調査、ご苦労であった」
彼は短く労をねぎらうと、すぐに本題へと移った。
「この報告書を裏付ける証拠は揃っているのか?」
カナベルが頷き、俺に促す。
「バンダナ、証拠を」
俺はカバンから手帳と水花火の現物を取り出し、公爵に手渡した。
エドワード公爵は静かに目を通しながら頷いた。
「なるほど、錬金術師の指紋がここに刻まれている。この製作者を確保しているということだが、隣にいるエルフがそうだな?」
ランバートは緊張しながら立ち上がり、深く頭を下げた。
「はい、私がこの度の水花火を製作しました」
公爵は冷静に頷き、次にカナベルへ目を向けた。
「カナベルよ、ここにある手帳はトリッジ伯爵の汚職を示す証拠だな。どのようにしてこれを手に入れたのだ?」
カナベルは力強く答えた。
「トリッジ伯爵夫人のバッグからです。バッグを盗んだ犯人が証言できます。そして、このバンダナもその場に居合わせました」
俺も一歩前に出て、公爵に進言した。
「エドワード公爵、バッグを盗んだ犯人、ランデルを証人として同席させることをお願いしたい」
公爵はしばらく考え込んでから頷いた。
「わかった。親衛隊隊長マグリットに手配するよう伝えよう」
俺は感謝の意を込めて頭を下げた。
エドワード公爵は書類を手に取りながら、静かに口を開いた。
「貴族の不正と汚職――これを正さねば、この国の未来はないと考えていた。今回の件が、その第一歩となることを願おう」
彼は静かに立ち上がると、決意を込めた声で続けた。
「午後に関係者を集め、査問委員会を実施する。それまで、奥の部屋で待たれるがよい」
俺たちは了承し、静かに部屋を後にした。査問委員会が、この事件の転機となるのは間違いない。
ここからが本番だ。
午後の査問委員会が始まる前、俺たちは部屋で静かに待機していた。
すると、扉が開き、チェルシーが軽やかに入ってきた。
「やれやれだね~、そんなに肩を張ってたら、今から持たないよ」
その軽口に、俺は思わず笑みをこぼす。
「チェルシー、久しぶりだな」
「お前さんたちが、ホントいろいろやってくれたねぇ」
彼女は呆れたような顔をしながら俺を見つめる。
「そんな言い方ないだろう」
俺は苦笑しながら答えた。
「水花火の事件ではチェルシーが関わっているかもしれないと思って、心配してたんだ」
「はぁ~、それが余計なお節介だってんだよ」
チェルシーは腕を組みながら溜息をつく。
「あたいだって、水花火の事件もトリッジ伯爵の汚職も知ってたよ。それで、マグリットに命令して帳簿や水花火の証拠を探らせてたのさ。でも、お前さんがいろいろ掻き回したせいで、こっちの作戦はパァだよ」
「それでも、裏帳簿は手に入ったし、水花火をトリッジ伯爵が依頼したことも証明できるようになっただろう」
俺がそう返すと、チェルシーは肩をすくめて笑った。
「まったく、口が減らないねぇ。でも、まあ……おかげで決定打が揃ったね」
彼女は目を細めて微笑むと、ふっと息をついた。
「……ありがとう。助かったよ」
その微笑みに、俺は少し肩の力が抜けるのを感じた。
談笑しているうちに、部屋の扉が再び開き、親衛隊隊長のマグリットが入ってきた。
「チェルシー様、トリッジ伯爵の屋敷地下から錬金術の形跡を確認しました」
「そうかい、ご苦労さんだね。それで、窃盗で留置されているランデルはどうだい?」
チェルシーが尋ねると、マグリットは真剣な表情で答えた。
「はい、体調も問題なく、手帳について証言する意気込みも見せております」
扉の向こうから、ランデルの声が聞こえた。
「……俺は、俺の罪を償うために、全部話す」
震えながらも強い決意を感じる声だった。
「よし、これで役者は揃ったってわけだね」
チェルシーは俺たちを見渡し、にっこり笑うと拳を握り締めた。
「みんな、気合い入れていきな!」
「おおお!」
俺たちは自然と声を合わせ、士気を高めた。
そして、いよいよ査問委員会へ向かった。
今回の戦いは、この査問委員会がすべてを決する最終決戦だ。
俺たちの証拠と証言が、トリッジ伯爵の悪事を白日の下にさらす。
そのために、全力を尽くすのみだ。
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