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第34話 やるか、やらないか


 ランバートは悔恨の表情を浮かべながら語り始めた。


「偶然入った闇の賭博所で、初めて大勝ちしたんだ。それからだよ。サイコロ勝負で魔素を使って出目を操れることに気づき、錬金術そっちのけで勝負にのめり込んだ。連戦連勝だったよ。浮かれていた俺は、ディーラーに誘われて十番勝負を挑んだんだ。でも、そこからすべてが狂った」


 カナベルが静かに言葉を挟む。


「魔素封じか……」


 ランバートは苦々しく頷いた。


「そうだ。サイコロには魔素を封じる仕掛けがしてあった。魔素が封じられた俺は、ディーラーに勝つ術を失った。結果、全財産を失い、さらに白銀貨二枚分の借金が残った。借金奴隷になるしかなかった」


「それからどうなった?」


「借金を返すために、『非情のディーラー』として雇われたよ。負けた人たちから無慈悲に賭け金を巻き上げる仕事だ。でも……早く借金を返したくて、甘い誘いに乗ってしまった」


「それが、水花火の製造だな?」


 ランバートは顔を伏せ、声を落とす。


「その通りだ。ある日、トリッジ伯爵の屋敷に連れて行かれた。地下の作業場に通され、不安定な水花火を作るよう命じられたんだ。『精巧に見えるが、暴発する代物を作れ』とね。その後の顛末は、君たちが知っている通りだ」


 俺はランバートの目を真剣に見つめた。


「やってしまったことには責任を取るしかない。そして、罪を償った後はやり直せばいい」


 ランバートは苦笑しながら首を横に振る。


「やり直す? そんなことできるわけがないだろう。錬金ギルドから信頼を失い、錬金術師としての誇りを踏みにじった俺が……今さら」


「何を言っているんだ!」


 俺はランバートの肩を掴み、強い口調で言い切った。


「誰がやり直せないと言った? 失った信頼は、努力して取り戻せばいい。やり直すことは、いつだってできるんだ。大事なのは『やるか、やらないか』だ!」


 俺の言葉を受けて、ランバートは一瞬驚いた表情を見せたが、次の瞬間、堪えきれずに涙を流し始めた。


「……もっと早く、バンダナさんに出会えていれば……俺は、きっと変われただろう」

「だから言っているだろう。今からでも遅くないんだ」

「……そうだな」


 ランバートの表情には、初めて前を向こうとする意志が宿っていた。

 彼が流した涙は、後悔のものだけではなく、新たな一歩を踏み出す覚悟の涙でもあった。


 ランバートは力強く頷く。


「ああ、できる。これが俺がやり直すための第一歩だ」


 カナベルは満足げに微笑み、ランバートの肩をもう一度叩く。


「よく言った。向こうの部屋で、その時が来るまで待っていてくれ。これから忙しくなるぞ」


 ランバートは部屋を出る間際、振り返って俺たちに深々と頭を下げた。

 その姿には、過去と向き合い、新しい道を進む決意が感じられる。


 彼が出て行くと、カナベルは俺の方に向き直った。


「さて、バンダナ。これで水花火の件と汚職の証拠が揃ったな」

「そうだな。でも、まだ話しておかなきゃならないことがある」


 そう言って俺は、ランデルのことと孤児院の話を詳しく語った。


 カナベルは眉をひそめながら聞いていたが、深く息をついて言う。


「そんなことがあったのか……マグリットのことだ。ランデルをトリッジ伯爵に渡すことは絶対にないが、早めに動いた方がいいな。今夜中に証拠の書類をまとめる。明日、公爵に申し出る段取りをつけるが、お前も同行してくれるか?」


 俺は頷いた。


「もちろんだ。ここまで来て抜けるわけにはいかない」


 カナベルは微笑み、手を差し伸べてきた。俺はその手をしっかりと握り返す。


 その後、俺は宿に戻り、明日に備えて荷物や装備を整えることにした。

 トリッジ伯爵との対決は近い。


 明日は、すべてを決着させる一日になるだろう。


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