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第32話 仁義とは


 ランバートは悔しそうに視線を落とし、呆然としていた。

 そんな彼を尻目に、黒服たちが再び歩み寄ってくる。


「お客さん、支払いがあるので向こうの部屋へどうぞ」

「断る。今すぐ、ここで、皆が見ている前で払え」


 俺は黒服の威圧的な態度に一歩も引かず、さらに強気に出る。


「おいおい、さっき負けた男には容赦なく支払わせたくせに、いざ自分たちの番になったら、このざまか?」


 その言葉に、観客がざわめいた。

 俺は畳み掛ける。


「仁義はないのか!」


 その声とともに、人影がひとつ、ゆっくりと現れる。


 ドワーフの男だ。


「仁義か……久しぶりに聞いたな」


 低く冷ややかな声が響く。

 男は俺の前まで歩み寄ると、腕を組んで名乗った。


「俺はこの賭博所のオーナー、ナデルだ。こいつらが無礼を働いてすまない。奥の部屋に案内しようとしたのは、白銀貨十枚をすぐに用意できないからだ」


 ナデルは淡々と言葉を続ける。


「だから手形を書いて、後日支払うことで納めてもらうつもりだったが……そうもいかないようだな?」


「当然だ。今すぐ支払えなければ、代わりの代価をもらおう。先の男の負け分をチャラにして、そこのエルフの男を渡してもらおうか。白銀貨十枚の支払いより、断然お得だろう?」


 俺の言葉に、場が静まり返る。

 ランバートは顔を歪めるが、抵抗する素振りもなく、ただ俯いた。


 ナデルはしばらく沈黙し、それからゆっくりと頷く。


「確かに安上がりだな……俺たちは闇に生きているが、仁義は通す。細かいやり取りがある。奥の部屋で、俺たちだけで話そう」


 俺は一瞬、警戒心を強める。しかし、今のところナデルに敵意は感じられない。


「いいだろう」


 ナデルについていき、闇の賭博所の中心から外れた薄暗い部屋に足を踏み入れる。背後で扉が静かに閉じられた。


 席に座ると、ナデルがゆっくりと口を開く。


「仁義か……お前、異世界人だな?」

「そうだ。今は“冒険者のバンダナ”ってことになっているがな」


 ナデルはくくっと喉を鳴らして笑う。


「他人事みたいに言いやがる。だが、度胸もあるし、人情もあるらしい」

「どうして異世界人だと分かった?」


 ナデルは少し寂しげに目を伏せる。


「若い頃に異世界人と関わったことがあってな……そいつから仁義について教わった」

「そうだったのか……」


 少しの沈黙の後、ナデルは肩をすくめて言う。


「まぁ、湿っぽい話はここまでだ。お前がここに来た本題を聞こうか」


 俺は水花火事件、錬金ギルド、そしてトリッジ伯爵について語った。


 ナデルは一通り話を聞き終えた後、しばらく考え込み――やがて深く頷く。


「なるほどな……これで全て繋がった。恐れ入ったぜ」


 そう言うと、彼は机の引き出しから何かの書類を取り出し、筆を走らせる。


「ほら、ここにサインしろ。これはランバートの奴隷証明書だ。お前がサインすれば、正式に所有権が移る」


 慎重に文書に目を通し、サインをした。

 どうやらランバートは借金奴隷だったらしい。


「これでランバートはお前のものだ。あんな勝負をされたんじゃ、たまったもんじゃない。さっさと出ていってくれ」

「いや、実はまだ話がある」


 無言で机の上に白銀貨一枚を置いた。


 ナデルがそれを見て、訝しげに眉をひそめる。


「これは?」

「これから起こることへの迷惑料だ」

「……どういう意味だ?」


 スキル『地図捜索』を発動し、確認する。


 やはり来ているな。近衛兵隊が……しかもカナベルもいる。

 どうやら、俺の行動が引き金となり、この賭博所にガサ入れが入るらしい。


「近衛兵隊が向かってきている。もうすぐ、ここは潰される」


 ナデルの表情がわずかに動く。


「本当か?」

「間違いない。そこでだ。俺が逃げる隙を作るから、帳簿をここに置いていってほしい」


 ナデルは腕を組み、しばらく考え込む。

 そして、渋い顔のまま呟いた。


「なるほど……そういうことか」


 数秒後、彼はゆっくりと立ち上がり、奥の棚から一冊の帳簿を取り出して机に置く。


「まぁ、いいだろう。トリッジ伯爵には仁義がないからな」


 俺は黙ってその帳簿を手に取った。


 さて……ここからが本番だな。


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