第31話 闇の賭博所
闇の賭博所に足を踏み入れると、熱気と喧騒が肌にまとわりつくようだった。
ランデルの助言のおかげで問題なく潜り込めたが、場内の独特な雰囲気には圧倒される。
中央の遊技台では、一際目立つエルフの男がサイコロを振っていた。
観客たちは興奮し、熱狂的な歓声を上げている。
テーブルに掲げられたルールを確認すると、シンプルながらも高リスク・高リターンの賭けであることがわかった。
「チンチロリンか……」
思わず呟く。
だが、よく見ると通常のルールとは違う点がある。
子が勝った場合の倍率が大きいのだ。
ぞろ目なら六倍で、一のぞろ目に限っては十倍だ。
だが、親がぞろ目を出して勝った場合、子は三倍の支払いを強いられる。
負ければ巨額の損失が待っている、まさに危険な賭けだった。
そんな中、一人の男が大勝負に挑んだ。
「子の掛け金、金貨十枚!」
その声に場の注目が集まる。男がサイコロを振ると、出目は六六五。
「よっしゃー! 六六五だ!」
歓声が湧く。だが、エルフの男が淡々とサイコロを振ると、信じられない数字が並んだ。
「三三三。ぞろ目、親の三倍役だ」
「ば、馬鹿な……! 金貨三十枚の負けだと……?」
男の顔が青ざめる。慌ててサイコロを調べるが、不正は見つからない。
エルフの男が薄く笑い、冷たい声で告げた。
「ふっ、気が済んだか?」
次の瞬間、黒服の男たちが静かに現れ、男を両脇から抱えて奥へと連れていく。男は必死に訴えるが、声は次第に遠ざかっていった。
俺は息を呑む。
この場所で負けた者がどうなるか――それを目の当たりにした瞬間だった。
単なる金のやり取りでは済まない。
この場には、見えない「掟」がある。
そんな中、エルフの男の冷徹な表情が脳裏に焼き付く。
あのエルフがランバートなのか……?
その可能性を胸に秘めながら、次の行動を考え始めた。
しばらく出目を観察していると、あることに気づいた。
これは……カーチスとやった棒の試験と同じだ。
サイコロには、魔素が流し込まれている。絶妙な制御により、狙った出目を出しているのだ。
「よし、勝負してみるか」
俺は順番を待ち、空いた遊技台の席に着く。
「おや、お客さん、賭けないのか?」
エルフの男が興味を持ったように声をかけてきた。
「さっきの男のように、サシの勝負がしたい」
「ほう、掛け金は?」
俺はテーブルに白銀貨一枚を置く。
「白銀貨一枚だ」
観客が一斉にざわめいた。
「初めて見る顔だが、いい度胸だ。どうなるか知らないぞ?」
「知ったことか。ただし、条件がある。先に親が振れ」
これまでの勝負では、子がサイコロを振る順番を決めることができた。だが、俺はあえて親に先に振らせる。
エルフの男は微笑みながら、サイコロを振った。
「四五六、親の二倍役だ」
場内のボルテージが一気に高まる。その中で誰かが叫んだ。
「流石は非情のディーラー、ランバートだ! 白銀貨でも容赦がねえ!」
やはり、この男がランバートだったか。
俺はサイコロを手に取り、魔素を制御しながら振る。
(やはり……出目はランバートの魔素で六六三に固定されている)
「錬金ギルドでやった、あの棒の応用だな」
俺はそれ以上の魔素を流し込み、サイコロを操作して振り出す。
「一一一、ピンゾロの十倍役だ!!」
歓声が爆発した。
「うおおおおお! 負けなしだったランバートが、白銀貨十枚で大敗したぞ!」
観客が狂喜乱舞し、場内の空気が一変する。
ランバートは驚き、顔を硬直させたまま動けない。
俺は内心、微笑みながらその様子を見つめていた。
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