第30話 事件の核心に近づけ
カーチスを真似るように、魔素の流れと制御を意識しながら慎重に棒を積み上げる。
一本、また一本と重ね、ついに10本すべてを積み上げることができた。
「やったぞ、全部できた!」
達成感で顔がほころぶ俺に、カーチスは感心した様子で肩をポンポンと叩く。
「君は凄い! 初めてで全て積み上げるとは、信じられない。ぜひ錬金ギルドに入ってほしい」
まるで少年のように目を輝かせるカーチスに、俺は苦笑いを浮かべた。
「いや、落ち着いてくれ」
「すまない、つい興奮してしまった。しかし、これを初挑戦で成し遂げるのは、錬金ギルドの中でも数人しかいない。君は才能の塊だよ」
「そうですか……」
俺は控えめに返事をした。鑑定スキルとものまねのおかげだとはいえ、ここまで褒められると少し照れる。
そのとき、扉がノックされ、女性が静かに部屋へ入ってきた。
彼女はカーチスの前に書類を置くと、一礼して退出する。
カーチスが書類に目を通しながら、小さく呟いた。
「やはり、この男か……」
「知っているのか?」
「ランバートだ。かつては非常に優秀な錬金術師だった。しかし、ギャンブルにのめり込み、借金で首が回らなくなった。ギルドが彼の借金を肩代わりして再起を支援しようとしたが、『これ以上ギルドに迷惑をかけられない』と自らここを去ったんだ」
その表情はどこか寂しげだった。彼にとって、ランバートはただの元同僚以上の存在だったのかもしれない。
「彼は今どこにいる?」
「貧相な住宅街で見かけたという話を聞いたことがあるが、それ以上の情報はない」
「そうか。水花火の製作者がわかっただけでも大きな収穫だ。ありがとう」
俺はカーチスに礼を言い、錬金ギルドを後にした。
聞いた住宅街は孤児院の近くだったはずだ。
もしかすると、ランデルなら何か知っているかもしれない――
そう思いながら、俺は足早に次の場所を目指した。
ランデルと初めて会った建物の前でしばらく待ってみたが、内部から物音がしない。
戸を叩いても返事はなく、仕方なく扉の前で待っていると、かすかに声が聞こえてきた。
「バンダナか。ランデルだ」
声の主はランデルだった。俺は耳を澄ませる。
「どうやら俺たちのことを親衛隊が嗅ぎ回っているらしい。この場所は危険だ。先に進んで酒場『深き森』に行け。入るための合言葉は『白き泉』だ」
ランデルの言葉を胸に、教えられた場所へ向かった。
酒場『深き森』は、隠れ家的な薄暗い雰囲気を持つ場所だった。
入口で男に合言葉を尋ねられ、「白き泉」と答えると、中に通された。
酒場の中にはランデルが待っていた。
「バンダナ、大丈夫だったか?」
「ああ。近衛兵厩舎で親衛隊隊長に直々に取り調べを受けたが、どうにかやり過ごせた」
「親衛隊隊長が相手だったのか……手帳は無事か?」
「ああ、俺が持っている。それに、この手帳の内容も解析した。これには、トリッジ伯爵が予算を削減して、その削減分を自分の懐に入れていることが記されている。完全に裏帳簿だ。今、近衛兵の知り合いがこれの裏付けを取っているところだ」
ランデルは驚きつつも、満足げに頷いた。
「凄いじゃないか。これで奴の汚職を暴けるかもしれないな」
「そっちはどうだ? 何か掴めたか?」
「ああ、この近くにトリッジ伯爵の息がかかった闇の賭博所があることがわかった。
そこには凄腕の錬金術師がいるらしい。奴は賭博で荒稼ぎして、その売り上げをトリッジ伯爵に上納しているそうだ」
俺は息を呑んだ。
「凄腕の錬金術師……もしかして、その錬金術師の名前はランバートじゃないか?」
「ランバート?」
ランデルは首を傾げたが、興味を示した様子だった。
「カーチスから聞いた話によると、ランバートはかつて優秀な錬金術師だったが、ギャンブルに溺れ、借金のためにギルドを去ったということだ。その特徴と今の話が一致している部分がある」
ランデルは少し考え込み、重々しく口を開いた。
「可能性は高いな。だが断定はできない。もしそのランバートが水花火の製作者だとしたら、事件の核心に近づける」
俺たちは、今後の方針を練り直すことにした。
しばらくするとランデルが、ふと俺の方へ向き直る。
「バンダナ、俺が準備を整えるから、闇の賭博所に潜り込め。そこでランバートの正体を探るんだ。それがトリッジ伯爵の汚職の証拠にも、水花火事件の解決にも繋がる気がする」
「わかった」
ランデルから賭博所に入るための手順と手形を受け取ると、俺は闇の賭博所へ向かう決意を固めた。
目的地を見据え、俺は歩き始めた。
そこには、真実と新たな危険が待っている気がしてならなかった。
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