第3話 異世界人の扉
あれからどれほど経っただろうか。一週間ほどか。
エドワード公爵に呼ばれていると、スコットが知らせに来た。
案内されるままに執務室へ向かうと、公爵はすでに席について俺を待っていた。
「バンダナ、待たせてしまったな。王都からの回答が届いた」
エドワード公爵は真剣な表情で俺の目をじっと見つめる。その視線の重みに、思わず背筋が伸びる。
「貴公についての結論が出た。王都の見解として、貴公を一般市民として扱う。ただし……」
公爵は少し間を置き、静かに続けた。
「ジョブ『ものまね士』については前例がなく、詳細は不明だ。それゆえ、王都の特例として『異世界人の扉』に入ることを許可する」
その言葉の意味を理解するまで、一瞬の間があった。
『異世界人の扉』――?
一体、それは何なのか。そして、この決定が俺の未来にどんな影響を及ぼすのか。期待と不安が入り混じる。
「異世界人の扉とは何ですか?」
公爵は口元に微かな笑みを浮かべた。
「ここにも存在する特別な空間だ。異世界から来た者だけが入ることを許され、そこで試練を乗り越えることで己の真実へと至ると言われている。だが、詳細はまだわかっていない」
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に考えがよぎる。
――もしかしたら、この試練が俺のジョブ『ものまね士』の正体を明らかにする手がかりになるのかもしれない。
淡い希望を抱きながら、俺は静かに頷いた。
エドワード公爵に案内され、屋敷の地下へと続く石造りの階段を降りていく。
ひんやりとした空気が肌を包み込み、不思議な緊張感が走る。
そして、たどり着いた先には驚くべき光景が広がっていた。
大きな扉がぽつんと空間の中央にそびえ立っている。
周囲には何もない。まるで、その扉だけが異次元から切り取られて現れたようだった。
「これは……何ですか?」
思わず尋ねると、公爵はゆっくりとうなずいた。
「不思議なものだろう。我々も、この扉の本質を解明できていない。ただ、一つだけ確かなのは――この扉は異世界人だけが開けることができるということだ。扉の向こうには空間が広がっているらしいが、それ以上のことはわからない」
扉を前に立ち尽くす俺を見て、公爵は穏やかに微笑む。
「案ずるな。この扉に入った異世界人たちは皆、無事に戻ってきている。さあ、君も中を確かめてみたまえ」
公爵の言葉に背中を押されるように、俺はゆっくりと扉に手をかけた。
冷たい感触が掌に伝わる。深呼吸を一つし、扉を開けると――
中は闇のような空間に満ちていたが、どこか引き込まれるような感覚があった。
俺は覚悟を決めて、一歩を踏み出した。
――そして、目の前に広がる奇妙な部屋が視界に飛び込んできた。
壁にはいくつもの扉が並び、中央には台座がぽつんと置かれている。
その台座の上には、見覚えのある形状の物体が鎮座していた。
「まじかよ……〇ァ〇コンのコントローラーじゃないか!」
思わず声が漏れる。
こんな場所でこれに出会うなんて、夢にも思わなかった。
台座に近づくと、その下に何か文字が刻まれているのが見える。
『入力せよ』
これが試練なのか?
何を入力するのか、俺はしばし考え込んだ。
しかし、"入力"と言えばアレしかない。
俺はコントローラーを構え、ボタンを押した。
「上 上 下 下 左 右 左 右 B A」
ボタン操作が終わった瞬間、台座が振動を始め、「ギュイーン」という電子音が響き渡る。
目の前の扉が点滅を繰り返し、ついにはゆっくりと開いていく。
扉の向こうには一体何があるのか――
この先に待つものを確かめるため、俺は足を踏み出した。
扉をくぐると、広がるのは広大な空間……かと思いきや、そこには何もなかった。
ただぽつんと、部屋の中央に浮かぶ巨大な八面体の水晶だけが存在していた。
「なんだ? ここは……」
部屋全体が薄暗い光に包まれ、水晶だけが異様に輝いている。
その光景に戸惑いながらも、俺が水晶に近づくと、不意に声が響いた。
「ようこそ、異世界へ。俺の名はサイモンだ」
突然の声に、俺は驚きと困惑で固まる。
「え、えっと……」
「ああ、悪かったな。驚くのも無理はない。ここは異世界から来た者たちの試練の場だ」
「試練の場?」
「そうだ。説明が必要だな。ところで、君のジョブは『ものまね士』か。それにスキルは『全共通言語』だけとは……珍しいな」
その言葉に促され、俺はこれまでの経緯を簡単に話すことにした。
「なるほど。大変だったな。でも君、あのコマンドを入力しただろう? ゲーム好きには嬉しい特典をあげよう。そこにある八面体の中を見てみろ」
――俺の異世界生活は、本格的に動き出したのだった。
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