第29話 錬金ギルド
錬金ギルドの奥の部屋で待つこと数分。
柔らかな足音が響き、エルフの男性が現れた。
銀髪が肩にかかり、深い緑の瞳が知性と落ち着きを漂わせている。
その目は柔和でありながら、鋭い洞察力を秘めていた。
「お待たせしました。錬金ギルド長のカーチスです」
彼は優雅に一礼しながら名乗った。
「初めまして、冒険者のバンダナです」
俺も立ち上がって一礼する。カーチスの物腰は柔らかいが、まとう空気にはどこか隙がない。
「君は冒険者の割には礼儀が正しいね」
カーチスは口元を緩め、軽く笑う。
「そうですか。まぁ、相手次第ですが」
軽口を叩くと、彼は楽しげに笑った。
「ははは、ユーモアまで持ち合わせているとは。さて、それでは本題といこう。近衛兵の依頼というからには、例の水花火の件だね?」
「はい、その通りです。これを見てください」
俺はカナベルから預かった水花火を慎重にテーブルへ置く。
カーチスの瞳がわずかに光った。手に取ると、目を細めて模様を凝視する。
「これは……間違いなく水花火だね。それにしても、綺麗に両断されているじゃないか。見事な剣技だ。君がやったのか?どうやって……」
「落ち着いてください」
俺は軽く笑いながら、カーチスの熱気を抑える。
「俺が知りたいのは、その核に刻まれている模様についてです」
カーチスは我に返り、水花火の核をじっくりと観察し始めた。指先で模様の表面を撫でながら、視線が鋭くなる。
「錬金術師の指紋か……なるほど。この模様は非常に明瞭だ。これほど綺麗に出ているなら、照合は問題なくできるだろう」
「本当に?」
俺は期待を込めて問いかける。
「もちろんだ。模様の形状と特定の特徴から、製作者を絞り込むことができる。ただし、手間が少しかかるぞ」
「構いません。これが重要な手がかりになるんです」
カーチスは再び模様を確認しながら頷いた。
「よし、照合を始めよう。ただ、結果が出るまで少し時間をもらいたい。それまでの間、何か質問があれば受け付けるよ」
「分かりました。よろしくお願いします」
こうして、事件解決への新たな糸口が見え始めた。
「さて、君は私に聞きたいことがあると見受けるが」
「はい、なぜ信用して水花火の件に協力してくれるのかが気になります。普通なら、近衛兵からの依頼と聞けば、もっと警戒するものではないですか?」
「確かにな。実は商業ギルド長から君の話を聞いていたんだ。優れた算術の能力を持つ冒険者がいるとね。それで水花火について相談を受けたと聞いて、私も興味が湧いたんだ」
「なるほど」
俺は納得し、軽く頷いた。
「ところで、君は錬金術に興味はないか?もしあるなら、簡単な適性試験を受けてみるかね」
「おお、それは面白そうだな」
カーチスは奥へと歩き、戸棚から細い棒を10本取り出した。
「錬金術では、正確な調合が重要だ。そして魔素を混ぜ合わせて調合するため、その制御が必要不可欠なんだ」
彼は集中すると、一本ずつ棒を積み上げていき、最後に全てをきれいに縦に積み重ねた。
「この棒に魔素を流しながら積み重ねていくんだ。均一に魔素を流し込めれば、棒は倒れない」
カーチスのデモンストレーションを見ながら、俺は鑑定スキルを使い、魔素の流れを注意深く観察する。
「よし、やってみるか」
棒を一本手に取り、魔素を流し込む感覚に集中する。慎重に魔素を均一に注ぎ、棒を積み上げていく。
しかし、5本目までは順調だったが、6本目を積もうとした瞬間——棒がぐらつき、バランスを崩して崩れた。
「くっ……」
俺は思わず歯を食いしばる。
「ふむ、なかなか筋がいい。もう一度、私がやるところを見ていてくれ」
カーチスが再び棒を積み上げていく。鑑定スキルを使うと、最初の土台を安定させるために魔素の基盤を作り、5本目以降では支線となる魔素を補強する形で流していることに気付く。
まるで、小さな建築物を作るようだった。
(なるほど……魔素の流れを支える基盤を作ればいいのか)
「わかったぞ。もう一度やらせてくれ」
俺は意気込みを新たにし、再挑戦を始める。
——そして、今度は6本目も、7本目も倒れることなく積み上がった。
この成功の感覚は、どこか水花火の模様を読み解く手がかりと似ている気がした。
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