第28話 事件解決への新たな一歩
しばらく考え込んでいると、カナベルが突然手を叩いて声を上げた。
「待て、この数値……何か見覚えがある。うーん……あと少しで思い出せそうだが……そうだ、これは座標だ!」
「座標?」
俺は眉をひそめながらカナベルを見る。
カナベルは戸棚から地図を取り出し、テーブルに広げた。
「バンダナ、見てくれ。この数値とこの地点が一致している。そして、この別の数値……これは近衛兵隊の予算だ。通りで見覚えがあるはずだ」
地図を覗き込みながら、俺も考えを巡らせた。
「そういえば、トリッジ伯爵が財務統括者になってから、近衛兵隊や孤児院の予算が減らされたと聞いたよな。それを考えると……」
俺は指をさして言葉を続ける。
「カナベル、この残りの列の数値、本来支給されるはずの予算じゃないか?」
カナベルは驚きつつも頷いた。
「確かに。昨年の予算とほぼ一致している。ということは……」
「他の座標に対応する施設でも、同じようなことが起きている可能性が高いな」
カナベルは手帳の座標をいくつか書き写しながら言った。
「この座標の中に、顔見知りの施設がある。調べれば、もっと確証が得られるだろう」
その時、カナベルが一息ついて手帳を手に取り直し、少し眉をひそめた。
「この手帳、やっぱり裏帳簿だ。だから、トリッジ伯爵は親衛隊を使ってでも取り戻そうとしたんだ。あのバッグを狙った理由は、この手帳が目的だったんだな」
俺は感心しつつ、少し笑った。
「きっとそうだな。カナベル、珍しく冴えてるじゃないか」
「珍しいは余計だ!」
カナベルは軽く睨みながらも笑みを浮かべた。
彼は手帳を俺に差し出し、真剣な表情になる。
「バンダナ、この手帳はトリッジ伯爵の汚職を証明する重要な証拠だ。慎重に扱う必要がある。君が持っていてくれ」
俺は手帳を受け取り、軽く頷いた。
「任せてくれ。これが真実を暴く鍵になるかもしれないな」
俺たちは目を合わせ、次にすべき行動を考えるために頭を巡らせた。
カナベルは奥の戸棚から慎重に水花火を取り出し、俺の前に置いた。
「この水花火は、先日お前が切り捨てたものだ。ここを見てくれ、薄いが模様があるだろう」
俺は手に取って、水の魔石の断面を撫でるように観察する。
「この三日月と三本の線か?」
カナベルは頷きながら説明を続けた。
「そうだ。この模様は錬金術を使った際に現れる特徴でな、製作者ごとに違うんだ。言わば、錬金術師の指紋みたいなものだ」
「なるほど、それならチェルシーが作った水花火と模様を比較すれば、この水花火が事件に使われたものだと証明できるんじゃないか?」
カナベルは少し苦い顔をした。
「確かに、それはできる。ただ、チェルシーが犯人でないことしか証明できないんだ。それで終わりじゃ領民の恐怖は消えないし、祝砲を上げることもできなくなる。祝砲が中止になれば、チェルシーは何らかの責任を取らされるだろう。それほど、この祝砲は重要な行事なんだ」
「確かに、そうなると真犯人を見つけることが最優先だな」
カナベルは手帳を閉じ、水花火を包み直しながら言った。
「そこでだ。この模様を手がかりに、商業ギルドの時みたいに情報を探れないか。製作者の情報がわかれば、その錬金術師を拘束できるだろう。それが一番いい」
俺は水花火を受け取り、荷物にしまい込む。
「わかった。やってみる。錬金ギルドで調べれば手がかりがつかめるかもしれない」
こうして、俺たちは行動を決め、錬金ギルドに向かうこととなった。
これが、事件解決への新たな一歩になるはずだ。
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