第27話 容疑者
「君が潔白であることを証明するために、まずは荷物と身体検査をさせてくれ」
マグリットの厳しい視線を受け、俺はしぶしぶ荷物を差し出し、身体検査を受けることにした。
マグリットは荷物を一つ一つ確認しながら、注意深く中身を調べる。
「すまないが、ポケットの中も出してくれ」
言われた通り、ポケットに入っていたものをすべて机の上に並べた。
一通り確認を終えたマグリットは、再び席につき、鋭い目つきで俺を見据える。
「取りあえず、不審な物は見つからなかった」
少しだけ安堵したが、次の質問がすぐに飛んできた。
「君は先ほど、犯人に逃げられたと言ったな。それを証明できる人間はいるのか?」
「おい、待て!」
横からカナベルが割って入る。
「そんなこと証明するなんて無理に決まってるだろ!」
「はぁ~……カナベル、少し黙っていてくれ」
マグリットはため息をつきながら、カナベルをたしなめた。
「こんなことを聞くのは、それだけ伯爵が犯人探しに本気だからだ」
カナベルは申し訳なさそうに黙り込む。
「そういえば……」
俺は思い出したように口を開いた。
「犯人を追いかけてる最中に、商人の荷馬車にぶつかってしまってな。そこで見失った」
「その商人の特徴は覚えているか?」
マグリットの問いに、俺はできる限り詳しく、商人の服装や顔立ち、馬車の特徴を説明した。
マグリットは頷きながらメモを取り、目を上げる。
「なるほど、かなり細かい情報だ。その商人が見つかれば、裏を取ることができる。そうなれば、君の潔白も証明できるだろう」
そう言うと、マグリットは席を立ち、部屋を出て行った。
部屋には俺とカナベルだけが残され、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「ふぅ……バンダナ、肝を冷やしたぞ」
カナベルはほっと息をつき、安堵の表情を浮かべる。
「お前のことだから大丈夫だとは思ってたがな」
「心配かけてすまん」
俺も肩の力を抜く。張り詰めていた空気が、ようやく和らいだ。
お互いの情報を交換する時間となり、カナベルが持っている情報を聞く。
「近く陛下が視察に来ることは知ってるな? それに、水花火を使った祝砲の準備をチェルシー伯爵が任されている」
「なるほど。俺の方もいくつか掴んでる」
俺は商業ギルドで得た情報を伝える。
「トリッジ伯爵が大量に買い占めを行ってるという噂がある。それと、彼が財務統括者に新任された際、チェルシー伯爵がその人事に強く反対したらしい」
カナベルは腕を組み、眉をひそめた。
「なるほど、重要な情報だな。だが、今のところトリッジ伯爵が水花火事件に関わっている確証には乏しい」
「そうなんだよな……」
俺は少し迷ったが、マグリットとのやり取りや孤児院のことは伏せつつ、新たな事実を話すことにした。
「実は、さっきの取り調べで黙っていたことがある。犯人には逃げられたが、その後、偶然路地裏で鉢合わせたんだ」
「なんだと?」
カナベルが驚きの声を上げる。
「ああ。捕まえようとしたが、揉み合いの末、また逃げられた。ただ、その時に犯人がこれを落としていった」
俺はポケットから手帳を取り出し、カナベルに見せる。
「この三列に分けられている数値はなんだ?」
カナベルは手帳を手に取り、じっと眺めた。
「それがわからないんだ。足し算や引き算で関連性を探ろうとしたが、どれも意味が通らない」
俺も頭を抱えるが、どうにも手がかりが見つからない。
カナベルも腕組みをして深く考え込む。
「何かの暗号かもしれないが、このままでは解読は難しいな……」
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