第26話 謎の手帳
「それなら、俺に手を貸せ。トリッジ伯爵の情報が欲しい。日ごとに裕福になっているのであれば、何か理由があるはずだ。例えば、汚職とか」
「確かに、だが仮にそれを暴いたところでどうする? 相手は伯爵だ。場合によっては不敬罪でこっちが処罰されるのがオチだ」
「そこは大丈夫だ。この街の親衛隊隊長であるカナベルとは一緒に訓練した仲だ。それに、領主であるエドワード公爵とも面識がある」
ランデルは驚き、目を見開いた。
「君は一体何者だ?」
「俺は冒険者のバンダナだ。トリッジ伯爵の件で何か掴めれば、俺も助かるし、孤児院も救えるかもしれない。協力しないか?」
ランデルはしばらく考え込み、やがて頷いた。
「そうだな……俺にとっても、このまま親衛隊に連れていかれるよりは、協力したほうがマシだ。俺はランデルだ。よろしく頼む」
「こっちこそ、よろしく」
俺たちは固い握手を交わした。
その後、バッグの中身を確認する。化粧道具、香水、アクセサリーなどが入っている。
「まあ、普通の中身だな」
特に目立ったものは見当たらなかったが、ランデルが目を細めてバッグを観察する。
「待てよ。底が二重になっているように見える」
ランデルはバッグを机の上に置くと、慎重に底の縁に指を滑らせながら探った。
「これだ!」
ランデルがバッグの底を押すと、「カチッ」と小さな音がして底が開き、中から小さな手帳が落ちてきた。
「これはなんだ?」
ランデルは手帳を拾い上げ、中を確認する。
「全くわからない。数字が書いてあるだけだ……」
渡された手帳を俺も見てみると、数字が三列に分かれて書かれている。しかし、桁数がバラバラだ。
「数字の桁数がバラバラ……これは何かの暗号か?」
俺たちは手帳の内容をあれこれ考えたが、手がかりは得られなかった。
「ランデル、この手帳を預からせてくれないか?」
「ああ、俺よりも君が持っている方がいいだろう」
俺は手帳を慎重に受け取り、ポケットにしまうふりをして、空間収納に素早く収めた。
これまでの情報を整理し、交換するために近衛兵の厩舎を訪れた。
厩舎にいた兵士に尋ねると、カナベルは奥の部屋にいるとのことだった。
部屋に近づくと、中から話し声が聞こえてくる。
「カナベル、バンダナだ。入っていいか?」
扉越しに声をかけると、すぐに返事が返ってきた。
「取り込み中だ。後にしてくれ。……おい、待て!」
突然扉が開き、見知らぬ男性が現れる。彼の鋭い視線がこちらを捉えた。
「カナベル、ちょうどいいところに本人が来たぞ。さぁ、入ってくれ」
男性が扉を開け放ち、促すように言う。
部屋の奥を見ると、カナベルがやや困惑した表情を浮かべていた。
「バンダナ、悪いが少し付き合ってくれ」
彼に促されるまま部屋に入ると、中央のテーブルを囲む形で座らされる。
「まずは自己紹介だ。俺は親衛隊隊長のマグリットだ」
見知らぬ男性が名乗りを上げ、厳しい口調で続けた。
「突然で悪いが、数日前、君はトリッジ伯爵の屋敷前で夫人のバッグが奪われた件について知っているな?」
「知っている」
少し警戒しながらも答える。
「俺はその場にいた。咄嗟に犯人を追いかけたが、逃げられた」
「やはりそうか」
マグリットは真剣な表情を浮かべ、静かに頷いた。
「実はな、君にはトリッジ伯爵に対する強盗窃盗容疑がかけられている」
その言葉に驚く間もなく、カナベルが二人の話に割り込む。
「マグリット、待て! さっきから説明しているように、バンダナはその件に関係ない!」
「カナベル」
マグリットの声は冷静だが、どこか苛立ちを含んでいた。
「君とは旧友の仲だが、私の立場もわかってほしい。この件は伯爵自らエドワード公爵に申し立てたものだ。親衛隊が動いている以上、適切に調査しなければならない」
部屋の空気が張り詰める。
マグリットの視線が再びこちらに向けられると、疑念と義務感がその奥に見て取れた。
「さて、バンダナ。君にはきちんと話をしてもらう必要がある」
マグリットの口調は硬く、逃げ場のない状況を強調するようだった。
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