第25話 義賊
逃げられたことが悔しくて、建物の前まで来たものの、どうするか決めかねていた。
地図を確認すると、この建物には青い点が三つ。つまり、中には三人いる。
「よし、行くか。――『サンダーボール』」
右手を掲げて魔法を発動させ、勢いよく扉を押し開けた。
「もう逃げられないぞ! 覚悟しろ!」
部屋の中に飛び込むと、そこには犯人と、小さな男の子が二人。彼らはテーブルを囲んで談笑していた。
突然の侵入に、犯人は目を見開き、唖然として固まる。
しかし、一方の男の子が、目をキラキラさせながら話しかけてきた。
「うわっ、びっくりした! いきなりだからお兄ちゃん驚いたよ。それに、その魔法、キラキラしてい
て綺麗だね!」
その無邪気な笑顔に気が緩み、魔法を解除する。
「そうか、驚いたか。よし、大成功だな」
犯人に向かって意味ありげに言うと、彼は察したように子どもたちを安心させる口調で話した。
「はは、大成功だな。さぁ、お前たち、そろそろ孤児院に戻る時間だぞ」
男の子たちは頷き、素直に部屋を出ていく。
その後、犯人はこちらを振り返り、真剣な表情で口を開いた。
「うまくごまかしてくれて助かった。子どもたちには知られたくなかったからな。……にしても、よくここまで追ってきたな。俺をどうするつもりだ?」
「まずはそのバッグを返してもらう。話はそれからだ」
犯人はしぶしぶと、奪ったバッグをテーブルの上に置く。
「まさかここまで追ってくるとは思わなかったが、子どもたちの前で乱暴な真似はさせたくなかった。それで、俺を捕まえるのか?」
少し挑戦的な口調だが、その目にはわずかな焦りが見える。
「それはお前次第だ。どうしてこんなことをした? 理由を話せ」
問い詰めるように尋ねると、犯人は小さく息を吐き、目を伏せた。
「……理由なんて聞いてどうする?」
低く漏らした声には、諦めと影が感じられる。それでも彼は続けた。
「俺だって、好きでこんなことをしてるわけじゃない。あの子たち――孤児院の子どもたちを養うためだ。あいつが財務統括者になってから、孤児院への給付金が大幅に削減された。このままじゃ、孤児院は維持できない。それなのに、あいつは日ごとに裕福になっている。そんなのおかしいだろ? だから、問題を解決するためにやったんだよ」
「孤児院の子どもたち?」
思わぬ言葉に驚き、思わず問い返す。
「ああ。あの子たちを見捨てるわけにはいかなかったんだよ。食べるものも、寝る場所もないようなガキどもをな」
犯人の目には、怒りと悲しみが滲んでいた。
「それでも、盗みは許されない」
短く言い放つものの、内心では彼の事情に動揺を覚えていた。
「それはわかってる。でも、俺にはこれしか方法がなかった。頼れる誰かもいない、金もない、そんな状況で、どうやって正攻法であの子たちを助けられる?」
犯人の声には深い悔しさが込められていた。その言葉から、彼の行動が間違っているのは明らかだが、動機が利己的なものではないことが伝わる。
「……そうか」
短く答え、少し考え込む。そして、ゆっくりと犯人を見据え、低い声で言った。
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