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第23話 算術の問題

 

 商業ギルドの管理責任者らしき中年の男性が問いかけてきた。


「ここは商業ギルドだ。情報をただで渡すわけにはいかない。取引をしよう。私が算術の問題を出す。正解すれば情報を提供しよう」

「それで構わない」


 そう答えると、男性は小さな帳簿を取り出し、何かを書き込んでから話し始めた。


「ある男には五人の息子がいた。男は八十枚の金貨を持っており、それを息子たちに分けることにした。分け方は、末っ子の五男を基準に、長男まで三枚ずつ増えるようにするというものだった。さて、長男は一体何枚の金貨を手にすることになるのだろうか」


「紙とペンを借りてもいいか?」

「もちろんだ。ただし、これは簡単ではないぞ」


 紙とペンを受け取り、素早く計算を始める。







 数分後、答えを導き出した。


「二十二枚だ」


 男性は驚いたように目を見開いた。


「正解だ。しかし、その速さが信じられない。どうしてその答えになるのか、説明してもらえないか」


「まず、五男から長男までの差を計算する。五男は零枚、四男が三枚、三男が六枚、次男が九枚、長男が十二枚で、差分の合計は三十枚。この三十枚を八十枚から引いて残った五十枚を五人に均等に分ける。すると一人あたり十枚になる。この十枚に長男の差分十二枚を足せば、二十二枚になる」


 男性は感心したように頷き、手を叩いた。


「見事だ。算術に知見がある君なら信用できそうだ」


 男性は机の引き出しから分厚い帳簿を取り出し、ページをめくり始めた。


「では約束通り、魔石の流通に関する情報を教えよう」


 しばらくすると、男性は周囲を警戒し、小声で話し始めた。


「この話は他言無用だ。お互いに命の危険が生じる可能性がある」


 頷いて先を促すと、男性は続けた。


「水の魔石と魔晶石の流通は、トリッジ伯爵が購入を独占している。近々陛下がこの街を訪れる予定だが、恒例行事として祝砲が打ち上げられる。その祝砲には水花火が使われる」

「それなら、トリッジ伯爵が怪しいのではないか?」


 そう問うと、男性は首を横に振った。


「話はこれからが核心だ。今回の水花火の責任者はチェルシー伯爵だ。水の魔石を集める理由があるのはむしろ彼女のほうだ。しかし、別の噂もある。トリッジ伯爵が財務統括者に新任された際、チェルシー伯爵がその人事に強く反対したそうだ」


「つまり、仕返しの可能性があるというわけか……。待て、チェルシー伯爵って、隻眼の魔女のことか?」


 男性は当然のように答える。


「そうだ。知らないのか? 彼女は二百年前の悪魔大戦で活躍し、英雄伯爵の地位を得た。しかし、大戦で大切な仲間を失い、それ以来、この街を出て南の森でひとりで暮らしているらしい。彼女についてはいろいろ言う者がいるが、俺は彼女が仲間を犠牲にして生き延びたなんて信じていない」


 少し語りすぎたと気づいたのか、男性は話を切り上げた。


「まあ、とにかく、この件に深入りするなら気をつけるんだな」


 男性に礼を言い、商業ギルドを後にした。


 チェルシーの過去――時折、彼女が見せた悲しげな表情の理由が少しわかった気がする。しかし、今はそのことを考えている場合ではない。


 トリッジ伯爵についてさらに調べる必要があるな。


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