第2話 鑑定
「着いたぞ」
カナベルの声に促され、俺も反対側の窓から外を覗いた。
「……なんて大きな屋敷だ。それに、門から屋敷までがずいぶんと遠いな」
「当然だろう。公爵家の屋敷だからな」
まるで宮殿のようだ。何もかもが規格外で、驚くことばかりだった。
馬車を降りると、俺たちは警備兵に案内され、豪華な装飾品と高級な家具が並ぶ部屋に通された。
すでに数名が待機しており、その中でもひときわ身なりの良い男が、俺に向かって歩み寄ってくる。
「異世界人バンダナとは貴公のことだな。私の名はエドワード・グラリオン公爵。王家の一員ではあるが、畏まらずに話してくれて構わない」
「エドワード公爵。お心遣い、ありがとうございます」
俺は丁寧に一礼した。
挨拶を終えると、公爵は机の上に置かれた水晶玉を指差し、促す。
「これは鑑定用の魔道具だ。通常のものより詳細な情報を引き出せる。さあ、手をかざしてみてくれ」
言われた通りに手をかざすと、水晶玉が淡い青色に光り出した。
「ふむ、報告通りだな。名前はバンダナ、犯罪歴なし、男性、25歳。スキルは『全共通言語』……そしてジョブは……『ものまね士』?」
公爵が眉をひそめ、カナベルへ視線を向ける。
「カナベル、この『ものまね士』というジョブについて、何か知っているか?」
「申し訳ありません。私は聞いたことがありません」
公爵は一瞬考え込み、再び俺をまっすぐに見据えながら口を開いた。
「ところでバンダナ。其方はここに来る前、神に会ったか? あるいは、誰とも知れぬ声の主と話したか?」
「いいえ。気がついたらここにいて……誰とも話していません」
「そうか……となると、神の恩恵は受けていないわけだな」
エドワード公爵の声には、少し残念そうな響きが混じっていた。
その後、俺はどこから来たのか、どんな生活をしていたのかを根掘り葉掘り訊かれた。
隣に控えていた高官が、そのすべてを丁寧に記録していく。
話が一段落すると、公爵は穏やかな表情で告げた。
「バンダナ、ご苦労であった。其方は客人である。王都での審査が終わるまで、ここで滞在されよ。何か困ったことがあれば、執事のスコットに申し出るがよい」
そう言い終えると、公爵はカナベルたちとともに部屋を後にした。
残された俺のもとへ、執事のスコットが一礼しながら歩み寄る。
「バンダナ様。本日はお疲れのご様子でございます。お部屋でお休みになられてはいかがでしょうか。夕食の時間になりましたら、お迎えに参ります」
スコットに案内された部屋は驚くほど広く、中央には見上げるほど立派なベッドが鎮座していた。
あまりの豪華さに落ち着かない気分で部屋を見回すと、ふと壁際の大きな鏡が目に入る。
そして、そこに映った自分の姿を見た瞬間、息が止まるほどの衝撃が走った。
「……若返っている」
鏡に映っているのは、以前の俺ではなかった。肌は若々しく、顔つきも違う。
それはまさに、俺がゲームで使っていたキャラクター——『バンダナ』そのものだった。
「一体、この世界は……どうなっているんだ……」
混乱と疲労が入り混じる頭で、俺はジョブ『ものまね士』について考えた。
しかし、その正体は依然として謎のまま。
気がつけば、俺は大きなベッドの上で深い眠りに落ちていた。
「コンコン」
扉を叩く音で目が覚めた。
ぼんやりとした頭のまま周囲を見渡すと、窓のカーテン越しに柔らかな木漏れ日が差し込んでいる。
ベッドから起き上がると、扉が静かに開き、スコットが顔をのぞかせた。
「バンダナ様、おはようございます。昨夜は夕食のお知らせに伺いましたが、余程お疲れのご様子でしたので、お声は掛けず、そのまま休んでいただきました」
どうやら夕食どころか、朝までぐっすり寝過ごしてしまったらしい。
「朝食のご用意が整いましたので、どうぞこちらへ」
スコットに案内され、食堂へ向かう。
豪華なテーブルに座ると、スクランブルエッグ、パン、サラダなどの料理が次々と運ばれてきた。
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
一口食べた瞬間、その美味しさに驚く。
「……うまい」
思わず漏れた感想に、スコットが穏やかな微笑みを浮かべる。
「お気に召していただけて何よりでございます」
異世界でもご飯が美味しい——それだけで、心からほっとした。
朝食を終えて部屋でくつろいでいると、スコットが数冊の本を持ってやって来た。
「バンダナ様。この世界についての基礎知識が記されております。お役に立てば幸いです」
「スコットさん、ありがとうございます」
俺はこの世界を少しでも理解しようと、夢中でページをめくり始めた。
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