第19話 やっと戻ってきた
チェルシーは額に手を当て、大きくため息をついた。
彼女の驚きに、少し気まずさを覚えながらも、持ち帰ったアイテムを差し出す。
「これが水の魔石32個と魔晶石2個。それから、雷の魔晶石と……天雷の剣だ」
チェルシーの前にそれらを並べると、特に天雷の剣に目が留まったようで、彼女の目が大きく見開かれる。
「……天雷の剣だって!?」
剣を机の上に置くと、チェルシーはさらに深いため息をついた。
「やっぱり、この部屋で話を聞いて正解だったよ。バンダナのことだから何か大ごとをやらかしてるとは思っていたけど、これは想像以上だね」
彼女は剣をじっと見つめながら続ける。
「天雷の剣はギガ級の代物だ。お前さん、この価値がどれほどか、わかるかい?」
言われて首を横に振ると、チェルシーは苦笑いを浮かべて答えた。
「白銀貨2枚だよ」
「……白銀貨2枚って……2000万円!? たっか!!」
思わず驚きの声が漏れる。
「その顔を見ると、ようやく実感が湧いてきたみたいだね。それだけの価値があるものさ。でもな、それをE級冒険者が持ち歩くなんて、無茶もいいところだ。ましてや、自分一人でキング・ウォータースライムを倒して手に入れたなんて、ギルドが知ったら大騒ぎになるよ」
彼女の言葉に、背中を冷たい汗が流れる。
「キング・ウォータースライムがそんなにやばい敵だったのか――なるほど。強いわけだ」
「そうとも。あれはC級の上位冒険者が単独で挑むような強敵だよ。それをお前さんがやってのけるなんて……まあ、感心するしかないね」
チェルシーは少し困ったような表情を浮かべながらも、真剣な声で言った。
「言いたいことは山ほどあるけど、ひとまず天雷の剣をしっかり持って宿に戻りな。魔石と魔晶石は確かに預かったよ。それから、明日の朝一でギルドに来な。いいかい?」
彼女の指示に従い、天雷の剣を空間収納にしまい、宿屋へ向かうことにした。
久しぶりに宿の扉をゆっくりと開けると、中から元気な声が響いた。
「はい、いらっしゃい~!」
そこにいたのはシルキーだ。相変わらずの明るさだが、俺の顔を見ると目を丸くし、次の瞬間、勢いよく駆け寄ってきた。
「バンダナさん!?」
彼女は両手で俺の手をぎゅっと握りしめる。
「もう! どこへ行ってたんですか? 連絡が全然なくて、心配したんですよ! 特にバンダナさんは冒険者だから、もし何かあったらって……もう、戻ってこないのかと思いました」
彼女の目には涙が浮かんでいて、その表情には本気で心配していた様子がありありと見える。
「すみません……チェルシーさんに言われて、『初光の鍾乳洞』ってダンジョンに籠っていたんです」
申し訳なさそうに言うと、彼女は一瞬むくれた後、笑顔を浮かべて受付に戻った。
「もう、次からはちゃんと行く前に連絡してくださいね!」
怒っているような言葉だが、その柔らかい表情にホッとさせられる。
……何故か周りの宿泊客や男性スタッフたちからの視線が痛いのは……気のせいだろうか?
「あ、バンダナさん!」
受付から再びシルキーの声が響く。
「宿代の滞納と延長手続き、お願いします~!」
支払いを済ませて部屋に入ると、そこは出発前と変わらず清潔に保たれていた。
シルキーが丁寧に管理してくれているのだろう。
「やっと、戻ってきたな……」
部屋の静けさと、久しぶりの安心感が心地よい。
ベッドに横たわると、自然と瞼が重くなり、そのまま深い眠りに落ちていった。
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