第11話 本当にヤバいヤツ
部屋に入ると、簡素ながらも整然とした空間が広がり、カトリーナが手続きを進める準備を整えていた。
机の上には、見覚えのある水晶が置かれている。
「席にどうぞ。これは冒険者ギルド専用の鑑定魔晶石です。では、冒険者登録のためにいくつか質問しますね」
鑑定が始まると、水晶に刻まれる内容を見たカトリーナが驚いたような声を上げた。
「えーと、バンダナさんのレベルは18ですね。体力と魔素が180……え? レベルの割に体力と魔素の数値が平均の1.6倍もありますね。これは珍しいです」
「へぇ~、そうなのか」
バレないようにとぼけてみせるが、心当たりはある。それはスキル『成長補正』だ。
『レベルアップ時にステータスが通常より多く上昇する』という説明が、まさにこれに該当する。
「はい、鑑定は終了です。犯罪履歴もなく、何よりチェルシー様の紹介ということもありますので、おそらくEランクかDランクで登録されると思います」
「ふ~ん、ちなみにランクについて教えてもらってもいい?」
「ランクはFからSまであります。基本的にはレベル、体力、魔素の総合値で決まります。ただし、Cランク以上になると、実績や試験の結果も昇格基準に含まれますね」
「ありがとう」
手続きを終え、チェルシーの待つロビーに戻ると、彼女は筋骨隆々で屈強そうな男と話していた。
俺に気づくと、チェルシーはその男に手で合図を送る。
「そろそろ席を外してもらえるかい」
男は頷くと、そそくさと奥の部屋へと去っていった。
「鑑定はどうだったかい?」
「EランクかDランクで登録されるって、カトリーナが言っていた」
「そりゃ上等だね。Eランクでスタートする人もそう多くないし、Dランクならなおさらだ」
チェルシーは満足そうにうなずき、俺の肩を軽く叩いた。
登録の最中、何人かの冒険者が入ってくる。チェルシーに気がついた者たちは隣の食堂へ向かい、気がつかない者たちは席に座って談笑を始める。
受付からカトリーナの声がかかった。
「バンダナさん~」
呼ばれて受付に向かうと、彼女がギルドカードを差し出してきた。
「はい、こちらがギルドカードです。発行費用として大銀貨3枚をいただきます」
「大銀貨3枚か……結構するな」
一枚が約一万円の価値だから、三万円か。高いなと思いながら支払う。
「登録はEランクになります。それから、こちらがギルド規約です。後ほどしっかり読んでおいてください。取り敢えず、簡単に説明しますね」
手短な説明を受け、ギルドカードを受け取る。手にしたカードを眺めていると、近くの男たちがにじり寄ってきた。
「へぇ、新米冒険者か。俺たちがギルドの流儀を教えてやるよ」
男たちはニヤニヤと笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「向こうの食堂で話そうぜ。もちろん、お前のおごりでな」
不快感を覚えつつも返事をしようとしたその時、横からチェルシーの声が響いた。
「どこのすっとこどっこいだい。あたいの連れにちょっかい出すんじゃないよ」
「うるせえな、このエルフが」
男の一人が悪びれる様子もなく吐き捨て、さらに言葉を重ねた。
「所詮ババアの戯言だろ。ほら、行くぞ」
そう言いながら男が俺の腕を掴む。その瞬間、チェルシーが声を荒げた。
「誰がババアだって? こちとら三百年生きてんだい! けどね、まだ肌はピチピチで現役だよ!」
そう言い放つと、彼女は右腕を上げ、指先から小さな火の玉を生み出した。
「無詠唱!?」
男たちは火の玉に驚き、次にチェルシーの左目に気付く。赤く光るその瞳に恐怖を覚えたようだ。
「ま、まさか……隻眼の魔女……!?」
もう一人の男が震えた声で呟くと、全員が慌てて土下座し、額を床に擦り付けた。
「本当に申し訳ない! まさか隻眼の魔女の連れだとは知らず……!」
チェルシーは呆れたようにため息をつき、手を振る。
「ギルド内だったから見逃してやるけど、次はないよ。二度と顔を見せるんじゃない」
男たちは逃げるようにギルドを後にした。その様子を見送ると、俺はチェルシーに目を向け、ぽつりとつぶやいた。
「……本当にヤバい人だな」
チェルシーは満足げな笑みを浮かべ、肩をすくめる。
「ヤバいかどうか、これからの訓練でよーく教えてやるよ。さぁ、ついてきな」
もしよろしければブックマークへの登録、応援をよろしくお願いします。
応援は下にある『☆☆☆☆☆』より押すことで可能です。
ブックマークも頂けると本当に嬉しいです。
作者のモチベーションになりますのでよろしくお願いします。