とおりゃんせ
ふと、意識が戻っていく。
気が付けば空は
朝焼けのような夕焼けのような、オレンジがかったピンク色に包まれていた。
心地よいサラサラとした水の音。
どうやら自分は船に先導されながら、川を流されて移動していたようだ。
何人か白装束の男たちが並び、腰には麻紐が巻かれている。
それを後ろの人間が掴み、また後ろの人間が腰から伸びた紐を握っていた。
自分は列の最後尾のようだ。
遠くの方から、ぼんやりととうりゃんせの歌が聞こえてくる。
船頭の男曰く、よくこの場所で紐を離してしまい、溺れて亡くなる人がたくさんいるそうだ。
紐はきつく結ばっているから大丈夫だろうと笑うと
「この紐は縁だ。何に繋がっているかわからない。気付けば死者につながっていることもある。しっかりと紐を見ていなければならない」
と注意された。
暫く進むと、川底から何本かの紐が浮かび上がり腕に絡まってくる。
次第にその数は増えていき、紐を掴んでいる指の間まで絡まってきた。
ところどころ、人の顔のようなものも浮かんでいる。
「この川は身投げする人も多いからなぁ」
のんびりと先導の男が呟いた。
すると、ものすごい激流が身を襲う。
ごうごうと唸りを上げて流れる水と、大量の紐。
なるほど、これでは紐を見失ってしまうのも頷ける。
懸命に紐を見失わないようにと目を凝らし、紐をにぎる。
ーー うしろのしょうめん だあれ ーー
曲が止まる。
激流も、嘘のように静まり返った。
手の内を見ると、1本の結ばった紐。
その先を目で追っていくと
藻に絡まり折り返ってきた、自身の紐だったーーー