プロローグ
幼いころ、恋人はできるものだと思っていた。
大きくなって、つくるものだと気付いた。
そして思春期。
恋人という存在は、政府が作り出した虚構なのではないかと疑いだした。街を歩くカップルも全部役者で、世界中のどこを探しても恋人などというものは存在していない。年をとれば自然と政府から相手を知らせる通知が届いて、それに従うしかないのだ。
だから恋人がいなくても平気。問題無い。
その考えはクラスメイトに恋人が出来た時点で破綻した。やっぱり恋人欲しい。
欲しくて欲しくてしょうがないので、クリスマスツリーに短冊を飾ったこともある。街で百人以上の女性に声をかけたこともある。だがいずれも結果は惨敗で、涙を流して枕を濡らすのが日課だった。
そんな思いが力となり、不思議な能力に目覚めてしまった。世が世なら、あるいはこれで世界をとれたかもしれない。まさに人生が一変するような、それほど素晴らしい力だった。
だけど、それは恋愛において全く役に立たない能力だったので、やっぱりまた枕を濡らした。
「私に力を貸してくれませんか?」
どん底から足掻こうとする自分に、そっと手を差し伸べてくれた人がいた。
その時を忘れたことはない。今でも夢にみるくらい、はっきり覚えている。
相手の声も、顔も、笑顔も、そして自分が何と言ったのかも。
「女になって出直してこい」
悪の秘密結社、その首領である山田良夜。
その参謀、坂城篠山の出会いであった。