校正
「君が、来てくれたのかい?」
「はい。皇国に戻ってくることになりましたので」
「君は、文字の読み書きとかには詳しいのかい?」
「はい。色んな国の言語を学んでおります。話すのは流石に悠長にとはいかないですが、ある程度なら。書く方の文章については、ご期待に添えるかと思います」
「本当に?」
僕は、嬉しかった。
皇国の人の中では、この子が初めて会った女性だ。
初めて会った時は冷たい感じがしたが仕方がない、あの場ではニッコリと笑顔になり様がない。
しかし、皇国に来る時の馬車の中での彼女は、とても可愛らしいかった。
「あら? 枇々木、顔がニヤニヤしてる」
ローズさんにからかわれてしまった。
(もう呼び捨てになってしまった。「さん」すら付けてもらえなくなった)
ローズさんからは、大分格が下げられてしまっているようだ。
「彼女の自己紹介の通り、語学については皇国内でも1・2位を争うくらいの実力を持っている。十分枇々木の力になれるはずだ」
フェイスが太鼓判を押してくれた。
「それは頼もしいな」
「殿下。あまり持ち上げられましても困ってしまいます」
ナビは、少し照れた顔をした。
「ハハハ。御免よ。私達も困っていてね。少なくとも私達より言語に精通している君が来てくれたから嬉しくて」
「はい、殿下。ご期待に沿えるよう頑張ります」
「うん。よろしく頼む。じゃ早速チェックを始めようか?」
まずは、今日の分の原稿の校正から始まった。
他はフェイス達が帰った後2人で進めることになった。
ナビの指摘は実にありがたかった。
諜報活動をしていたこともあり、言葉遣い、文章、文字の種類、事細かく指摘してくれた。
王族貴族の言葉使い、一般庶民の言葉遣いの違い。
言い回し等の指摘もしてくれた。
それに、書き直す必要が出来るだけ少なくなるようにも配慮してくれた。
書くスピードを落とさない為だ。
ありがたい。
僕も、16・7歳の美少女と一緒だからテンションが上がっている。
そんな感じで執筆を進めていたが、盛り上がりの所で筆が進まなくなってしまった。
「枇々木様、どうされました?」
ナビが心配して尋ねてくれた。
「うん、実はね」
僕はクライマックスの所を書くに当たり、自分の整理できていない気持ちをナビに話した。
「そうですか? もう少し説明頂けますか?」
ナビにも上手く伝わらない。
「ヒロインに呼びかける時、どういう展開にすれば良いのか? そこがね?」
「どうすれば良いと思いますか?」
「うーん。主人公は隣国に亡命している。どうやって、ヒロインと引き合わせるかなんだ。実際に、モデルの僕は、こうして皇国に居る。どう頑張っても帝国に再潜入何て出来る技量はない。国境ですぐ捕まってしまうだろう。だからどうしようかと。困ったなぁ」
全くの創作ならば、主人公補正で異能の力でも身に着けさせるところだ。
だが、この小説は、告白本も兼ねているので、まったく現実とかけ離れるわけにもいかない。
かけ離れすぎると、帝国のしている悪事への啓蒙活動にならなくなってしまう。
「そうですねぇ」
ナビも一緒に考えてくれている。
改めて見るとナビは、知的な顔立ちだ。
リリィと違って体格はきゃしゃだが、不健康な体系ではない。
腕を組み、右手を顎の下に軽く当てて「うーん」と考えている姿は、とても可愛い。
「皇国にもリリィ様のような特殊部隊の方々がいます。その方達の力をお借りしてという形で問題ないのではないでしょうか?」
「そうか、やっぱりそれで、おかしくないんだね?」
僕は、元々そう書こうと思っていたが、実際はどうなのだろうと心配していた。
「はい。現に、枇々木様は、そうして皇国に来られてますから」
「あ、そうか。そう言えば。アハハ!」
ナビと来た馬車の時の事を思い出し、2人で笑った。
「……」
笑い終わった後、ナビが顔を赤くして急に黙ってしまった。
「あれ? どうしたの?」
僕は心配した。
「いいえ。ちょ、ちょっと熱いですね。冷たい飲み物が無いか使用人さん達に聞いてきます」
少し声を上擦らせながらナビが話す。
「うん。ちょっと根を詰めすぎたね。少し休もうか?」
途中まで手直しした原稿を整理し、僕とナビはリビングに向かった。




