執筆
ローズさんは、僕が恋愛小説の形を取ったラブレターを書くんだと知ると目を輝かせていた。
「異世界から来た素敵な紳士が、自分を殺しに来た暗殺者の女の子に恋をしてしまう物語なんて。素敵ですわね」
「そうなるね。ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「いいえ、そんな事はないわ。女の子の気持ちでわからない時は、私で良ければ手伝いますわ」
ローズさんは、目をキラキラさせている。
「あ、ありがとう」
(うーん。ご令嬢のローズさんと違ってリリィさんは暗殺者の女の子なんだよな。参考になるかな?)
でも、恋愛経験ゼロに等しい僕にとっては藁にも縋る思いだから助かる。
僕は、早速原稿用紙を引き出しから取り出しメモを書き始めた。
「何を始めたんだい? 枇々木君」
フェイスが尋ねてくる。
「いきなり書き始めても途中で行き詰ってしまうから構想を練るところから始めようと思って。そうだな、タイトルは後で考えることにして、あらすじやプロットとか書いていきたい」
「『プロット』?」
「僕は、それで何をどう書くかを整理するんだ。正確な定義は、御免。覚えていない」
「ああ、まあ、任せるよ。小説に関しては、この世界では君しか知らないからね」
「それ言われると、プレッシャーだな」
僕は苦笑いした。
「リリィさんを嫁にする為だ、そんなこと屁でもないだろ?」
「う、うん」
(嫁にかぁ? 確かにそうだが、変な所に力が入りそうだ。気を付けないと)
「じゃ、僕らは、いったん戻ることにするよ。屋敷内の事は、使用人に言ってくれ。使用人達からも、君に声を掛けるように伝えておくよ。夢中になって忘れることもあるだろうから」
「ありがとう、フェイス」
「じゃ、無理はするな」
「わかった」
「枇々木さん、頑張ってくださいね。夕食や睡眠は、ちゃんととってくださいね。明日また来ますから」
ローズさんも、気遣ってくれた。
「うん。二人とも、ありがとう」
二人を玄関まで送った後、僕は書斎に戻り続きを始めた。
小説の構成を大まかに決めていった。
1巻目は、ラブレター編。
2巻目は、告白編。
3巻目は、プロポーズ編。
4巻目は、結婚編。
(大体こんなものか?)
最初の1巻目が重要になる。
そこで彼女の心を捉えなければ、帝国へ一矢報いることは出来るけどリリィさんは皇国に来てくれない。
つまりは、2巻目以降が書けないことになる。
それにしても、最初に出会った時、夢の事を思い出していれば展開が違ったかもしれない。
例え、あの時のリリィさんに伝わらなかっとしても。
(よし、それも伝えよう。その思いも込めて書くことにしよう)
僕は、あの衝撃的な出会いを思い出し整理していった。
そして、この世界のみんなが引き込まれるような冒頭を書き始めた。




