Uno
この作品は毎週月曜日の投稿予定です。オリジナル作品であるため、後から編集する可能性あり。
目をあけて、真っ先に見えるのはあの紋章だ。乗り越えたはずの過去をこうやってたまに夢として現れる。以前よりはましになっているがそろそろ認めよう、私は永遠この記憶を引きずって生きていくだろう。
周りに目を通して、細かいところまでこうやって再現する自分の記憶に驚きを感じる。まして、これはあの人生の最初の記憶なはずなのに、4歳の子供にとって階段から落ちるのはよほどトラウマだったらしい。「らしい」を使う理由は階段から落ちた時より、治りかけの時を覚えいているからだ。不思議ではあるが、考えても無駄だ。マリベルとカヌーをしにいく約束があるから朝早く起きなければならない。早く終わってほしいけど、この夢だけは途中で起きることは一度ない。
窓側を見ると、まだ太陽の光が薄く、マリーが入ってくるまでにまだ時間がある。目でも閉じていこうと思うと、短期な私にそのこともすぐ飽きる。手を伸ばし、目の前で観察しはじめた。小さな可愛い手だ、弟を思い出させる。今は成長して私より大きな手でありながら、可愛いと思う。多分、30とか、50とか、いつでも可愛いと思う。大丈夫、重症なブラコンと自覚はしている。大丈夫じゃないかなあ?
そう思いながら気持ちが楽になり、笑顔になる。そしてマリーが入った。色々と話しているが、暗唱できるほど聞き飽きてる自分は耳を傾かない。本当に早く終わってほしい。
マリーがベットのカーテンを開けて、私に微笑む。「おはよう御座います」と若いマリーがいう。
まだぶつかったところが痛むからマリーが立つのを手伝ってもらう。床に足をつけると自分でも痛みに驚く。この時だ、真剣に考え始めて、周りをよく観察し始めた。体が異常に反応がよく、毎度の夢で色が違ったりする自分のパジャマが薄いピンクで何をしても変わらないし、マリー自身も若いままだ。夢じゃないかもとすぐにその質問を答えるために頭を働きさせる。と同時に、現実に近い夢も始めてではない、夢の中では現実だと思いながら、起きればいろんな異変に気付く、けどあまりにも5感を刺激されている。マリーの優しい声、薬の匂い、眩しい光、乾いた口の中、さらさらなパジャマの生地、そして手を伸ばすとちゃんとマリーのスカートを掴めることがこれが現実だと思わせる。あああ、邪悪な潜在意識だ。なぜこの感触をここまで再現できているの?いらないことも思い出させる、そして知らずに涙が溢れた。
「ごめんなさい、まだ痛むでしょう。どうしよう、明日に体洗いますか?」困った様子のマリーを見て、頭を左右に動く、水でも浴びたら目を覚ますだろう。
そう、いつものように、体洗って、可愛く着替えて、お父さんに挨拶して、豪華な朝食食べて、読書して、また豪華な昼ご飯を食べて、マリーのおとぎ話を聞いて、また豪華な夕食を食べ、寝に行けば、元の自分に戻れる。そう、いつものように振る舞えば、きっと大丈夫。
けど、次の朝は同じ紋章を見た。そしてその次も、その次の次も、その次の次の次も、そして今日を迎えた。同じ紋章だ。
マリーが心配そうな様子で、挨拶をして、今日の予定を教えてくれる。4歳の子供に教えてもと無駄と思いながら話を聞く。変わったことに今日はお父さんと朝食を食べるそうだ。「お父さん」の言葉に無意識に反応する。マリーもそれに気付いて話題を変える。違うよマリー別にそう言う意味じゃないと教えたいが、他にパパがいるって説明できそうにない。
私もバカじゃない、気付いている、いや分かっている、これは夢ではないと。でも認めれば、私は壊れる。それが1番怖い、どうも今はその事実に立ち向かえない、だから自分に嘘をつくのは自分のためでもある。できるところまで嘘を付き続く。
それでも、今日は泣いた.いや大泣きした。浴槽の中で頭ごと沈み、戻りたいと強く願った。水の中で周りの音が入れず、最後の記憶を絞り出そうと必死に集中した。寝る前の自分、7日前の自分は何をしていたんだ?
胸が苦しく、息できない、体が重いし、沈んでいく、なんか水が赤く見える。意識が飛んだ。誰かが腕を強く引っ張りだしたが痛くない、周りのバタバタも見えないし聞こえない、体が重い、すごく重いし足が痛い。何より胸が苦しい、けどその理由は水に沈み過ぎたからでもない、心が痛いんだ、ものすごく。あああ、壊れ始めたかも。
読んでいただいてありがとうございます。