お友達が欲しいですわ
あれから月日は流れ、1週間後にはイシュタリア学園へと入学する。
わたくしは少々心の中で焦りや不安を抱えながらも、もうここまで来たのならばなるようにしかならないわと開き直っている。
わたくし、前にも言ったけれどヒロインを虐めるつもりもなければ害するつもりもない。
なるべくヒロインには近付かず、出来れば楽しい学園ライフを送りたいと思っている。
わたくし、顔が悪役令嬢顔だからなのかお友達と呼べる方がいない。
出来れば学園ではお友達を作って、楽しくお喋りしたりお茶をしたり、時々は街に出かけて話題のカフェに行ったりお買い物を楽しんだり、そして行く行くはお泊まり会やパジャマパーティーなんてのをやってみたいのだ。
その為にも頑張ろうと思っているのだけど、わたくしには難しいかしら?
そもそもお友達ってどうやって作るものなのかしら?
自分から声を掛けて「お友達になりましょう」と言えばいいのか、あちらから声を掛けて下さるのを待って大人しくしていればいいのか。
「分からないわ...」
「何が?」
ルーカス様の声がして現実に戻った。
いけない、今はルーカス様とのお茶会の最中だったわ。
「何が分からないの?」
ルーカス様は最近ではわたくしやレンと一緒ならば屋敷から出る事も出来るようになってきた。
但しまだまだ長時間は無理なのだけれど凄い進歩である。
「お友達ってどうやって作ればいいのか分からないのですわ」
「...友達...イザヴェル嬢は友達が欲しいの?」
「そうですわね、欲しいですわね。わたくし、レンやルーカス様以外には親しくしている方がおりませんでしょ?世の中の皆様は同性のお友達と色々と楽しんでいらっしゃると聞き及んでおりますのに、わたくしにはそういった経験がございませんもの。羨ましいと思ってしまいますのよ」
「親しい人の中に、僕も入ってるんだね」
「勿論ですわ!ルーカス様はわたくしとレンの大切なお友達ですわ!」
「そっか...エヘへ」
あぁ、ルーカス様がお可愛らしい。
ゲーム内のルーカス様も大変可愛らしいビジュアルをされていたけど、実際のルーカス様の方が数段お可愛らしい。
ほんのりと色付いた頬にキラキラ光る瞳。
出会った時は幽霊のようになまっ白くてガリガリだった体は今では少し痩せている位までになり、子犬感が急増。
ペタンと垂れた耳とパタパタ動く尻尾を付けたらどれ程可愛らしいのかと想像してしまう程愛くるしさを爆発させている。
弟がいたらこんな感じなのかしら?
わたくしには弟も妹もいない。
我が家の家族構成は父、母、長兄、次兄、わたくしの5人家族である。
6歳年上の長兄は先日結婚し、今は本宅の隣に建っている別宅にて嫁いで来た伯爵令嬢だったお嫁さんであるスーザン様と新婚生活を送っている。
3歳年上の次兄は長兄が家を継ぐので自分は好き勝手に生きると宣言しており、その通り滅多に家に帰って来ない。
昔から何かを研究する事が好きだった為に何処かの研究施設の博士に弟子入りしており、弟子としてあちこち駆け回ったり雑用しながら自分も何やら研究しているそうなのだが、その分野に全く興味がないのでよく分からない。
ただ元気だという事だけは分かっているので心配はしていない。
真面目で少し堅い長兄と自由人の次兄を持つわたくしは、唯一の女児である事もありとても甘やかされて育った...等という事はなく、愛されてはいるがそれなりに淑女として恥じないようにある程度厳しく育てられた。
飴と鞭の使い分けの上手いお母様に煽てられたり叱られたりしながら育ったわたくしは我儘で傲慢な鼻持ちならないご令嬢にはならずに済んだ。
その点は感謝である。
でも10歳でレンの婚約者となり、何処に行くにもレンとセットになってしまったので友達なんて作る暇もなく今日まで来てしまったのだ。
レンは選ばれた御学友が何人もいる為友達がいないなんて事はないのだが、わたくしはそうではない。
「イザヴェル嬢なら直ぐに誰とでも仲良くなれると思うよ」
ルーカス様にはそう言われたけれど、わたくし、自分でも分かっている。
気軽に声を掛けられるような親しみやすい顔をしていない事は。
親しみやすい顔をしているか否かは多分とても重要な事だと思うのだ。
わたくしだったら意地悪そうな吊り目の近寄り難い女の子よりも、クリンとしたまん丸い目に愛らしい容姿の女の子に声を掛けるだろう。
正にヒロインのような容姿の女の子に!
「はぁ...どうしてわたくしって悪役令嬢顔なのかしらね...」
「悪役令嬢顔?何それ」
いけない!また思考が飛んでしまっていたわ。
ルーカス様の前なのにこれでは失礼よね。
「悪役って悪者を演じる役者の事だよね?悪役令嬢は悪者であるご令嬢を演じる役者...イザヴェル嬢の何処が悪役令嬢顔なの?」
「わたくしって吊り目でしょ?髪も目も派手な程に真っ赤ですし、体もこの年頃のご令嬢より迫力がございましょ?こういう容姿は悪役令嬢と呼ばれる者に多いらしいのですわ」
「ふーん、変なの。イザヴェル嬢はとっても綺麗で強くて優しいのに」
「綺麗...」
「うん、とっても綺麗だよ。まるで大輪の薔薇のように綺麗なご令嬢だよ」
「ま、まぁ、ありがとうございます」
ルーカス様の思わぬ言葉に顔が熱くなるのが分かった。