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ルーカス様に会いに行きますわ

 わたくし、今馬車に乗っております、レンと共に。


 学園を見学してすぐに「ルーカスに会いに行くか?」と言われて頷いた結果、見学の翌日に会いに行く事が決定し、現在に至ります。


 本日乗っている馬車は所謂お忍び馬車と呼ばれる、家紋等が一切なく、外観は至ってシンプルであり質素に見えるけれど、内部のシート等はクッション性が高くて乗り心地の良い仕様になっている馬車ですわ。


 わたくし、悪役令嬢のポジションにいる位ですので容姿は迫力のある美女だと自負しております。


 今更わたくしの容姿を説明するのもどうかと思いますが、全く説明する事なくここまで来てしまいましたから、今更ながらご説明致しますわね。


 わたくし、赤髪赤目でハッキリとした二重の瞳は若干つり目をしておりますわ。


 前世を思い出す前までのわたくしは真っ赤な髪を立派な縦ロールに巻いておりましたが、思い出した現在はしておりません。


 だってあの縦ロール、作るのにも時間が掛かる上に動く度に顔に当たりますし、何より重いのですよ!


 ドリルなんてよく言ったものだと思いますわ。あんなの振り回したら本当に凶器になりますわよ! 誰ですの!? あのような髪型を考えついた者は!?


 まさかとは思いますけれど、か弱い貴婦人方が自己防衛手段を考えた際に「そうよ! 縦ロールよ!」と思い付いたなんて言いませんわよね?


 閑話休題。


 赤髪赤目につり目をしているだけでもちょっとした迫力のある顔だとお分かりだと思いますが、そんな迫力のある顔が小さくて透き通る程に白い肌をした顔の中にスッキリと収まっております。


 そして、まだ十四歳であるに関わらず既に自己主張全開のよく育った胸に抉れた腰、長い手足、女としては少々高い身長。


 もうこれだけ言えばお分かりでしょう? もう完璧なのですわ、わたくしの顔も体も!


 これぞ悪役令嬢とでも主張しているようなものですの、悔しい事に。


 物によっては中身最悪、見た目はヒロインな悪役令嬢もおりますでしょ? ですがわたくしはもう正統派悪役令嬢とでも申したい位にThe悪役令嬢な容姿をしておりますわ、悲しい程に。


 だけど別にこの容姿、わたくし嫌ってはおりません。


 赤髪と豊満なボディはお母様譲り、赤目と高身長はお父様譲りでございますのよ、喜ばしい事に。


 わたくし、お父様もお母様も大好きですので、両親から受け継いだこの容姿を誇りこそすれ嫌がる事なんてありませんの。


 とまあお友達に自慢するかのように語ってしまいましたわね、わたくしとした事が。



「今日のベルは薔薇のようだ……その、綺麗だ」


「ふふふ、ありがとうございます」


 わたくしの本日のドレスは落ち着いた緑色の物を選んだ。


 赤髪赤目のわたくしには緑色が良く似合う。


 緑色のドレスを着たわたくしは自分で言うのもおかしな話だけれど本当に薔薇のようなのだ。


 本当は黒いドレスの方が似合うのだが、初めてお会いするルーカス様にド迫力な姿でお会いする訳にはいかないので、本日は控え目に緑色である。


「わたくしの前世の記憶の中のルーカス様は薄黄緑色の髪にエメラルドのような瞳の愛らしい容姿をされておりましたが、こちらのルーカス様もそのような容姿なのですか?」


「愛らしいかは分からないが、薄黄緑色の髪にエメラルドに例えられる瞳をしているな」


「わたくし、怖がられてしまわないでしょうか?」


「ベルの話はこれまでに何度もしているからきっと大丈夫だ」


 わたくしのどのような話をしていたのか些か気になる所ではありますがここは聞きません。


 ルーカス様がお住いになっている御屋敷はジェロニカ侯爵家所有の別荘の一つで、王都からほど近いが周囲は静かな場所に建っていた。


 但し警備の数が尋常ではなかった。


 門の前には屈強な男が四人立っており、屋敷の周りは常に二、三人が見回りをしている。


 門をくぐって屋敷へと向かう間にもチラホラと警備の姿が目視で確認出来たし、玄関前にも門にいたのと同様の屈強な男が二人立っていた。


 屋敷やその敷地自体は我が家の半分程の、貴族の別荘としては些かこぢんまりとした印象のある御屋敷なのに、玄関までに見た警備の人数が十人を超えているのは普通に考えて異常である。


 だが、それだけルーカス様の誘拐殺人未遂が糸を引いているということでもある。


 これ程までにしなければ安心出来ない……いや、これだけしても安心出来ずにいるのだろうと思うと本当に気の毒でならない。


 ゲームのルーカス様は天真爛漫といっていい程に伸びやかで自由で明るい子犬のようなキャラクターだっただけに、今のルーカス様の状況がお気の毒過ぎて胸がギュッと痛む。


「ようこそおいで下さいました」


 出迎えてくれた初老の家令であろう人物に案内されてルーカス様の部屋へと向かった。


「ルーカス様、アーレン様がお見えになられました」


「……入ってもらって」


「どうぞ」


 家令が扉を開けると、薄暗い室内にルーカス様はいた。


 カーテンを閉め切った部屋は薄暗く、ルーカス様の座るソファーの前のテーブルに置かれたランプだけが唯一の光源。


 ずっと窓も閉め切られているのか、室内の空気が異常に悪い。


「ルーカス、元気にしていたか?」


「……元気、だよ?」


「今日は伝えていた通り私の婚約者を連れて来た。イザヴェル・ドミニクスだ」


「お初にお目にかかります、わたくし、ドミニクス公爵が娘、イザヴェルにございます」


「……そ、そう、君が……」


 薄黄緑色の髪にエメラルドのような瞳ながら、青白くガリガリに痩せたルーカス様がそこにいた。


 暫くレンとルーカス様は取り留めのない会話をしていて、わたくしは二人の会話をただ聞いていた。


 でも心の中では「何ですの、この環境は!? いくら外が怖いと言ってもこれでは病気になってしまいますわ、身も心も! いけません、いけませんわ!」と思っていた。


 わたくし、悪役令嬢ですもの、少し位横柄な態度に出てもいいのではなくって?


 そう思ったら体がムズムズとしてきて我慢が出来なくなってきた。


「失礼しますわね」


 そう言うと窓へ近付いてカーテンを開けて窓も全開に開いた。


「お部屋の空気が悪すぎますわ!」


「なっ、なっ、何してるんだ!」


「空気の入れ替えですわ! ルーカス様、この部屋の空気は悪過ぎます、これでは心だけではなく体まで病んでしまいます!」


「……」


「わたくしにはルーカス様のお心の傷は計り知れません。ですが、勿体ないと思いますの。恐ろしい事にばかり心を取られて美しい物、楽しい物も知らずに閉じこもる事がとても勿体ないと思いますの。ほら、外はこんなにも温かく美しいのに」


 窓から見える庭は心が弾む程に美しく整えられ、誇らしげに花々が咲き乱れている。


 窓から入る風は優しく肌を撫でる。


「ルーカス様? 恐ろしい事から逃げる事も大切です。ルーカス様のお心を守る為の手段ですもの、当然ですわ。ですが、それ以外の物から目を逸らすのは本当に勿体ないと思いますの。ルーカス様を守る為にこの御屋敷は厳重な程に警備されております。少なくとも現状のこのお屋敷の敷地内はルーカス様を脅かすものはないと言っていいと思いますの。そんな安全な場所におられるのですから、ルーカス様の慰めになるようにと整えられたお庭に目を向けてみてもよろしいのではなくて? もう少し周りに目を向けてみても罰は当たらないのではないかしら? きっと世界はルーカス様が思うより優しいものに溢れていますわ。それを知らずに閉じこもっているだけなのは愚かだとわたくし思いますのよ」


「愚か……」


「ええ、愚かです。怖がってもいいのです。ですが逃げてばかりでは、目を逸らしてばかりではいけません。ルーカス様を本当に心から大切に思っている者達から目を背けるのはその者達に失礼です」


「失礼……」


「これ程までにルーカス様を守る為に皆が心を砕いている。それは皆がルーカス様を愛しているからですわ。その愛をただ享受するだけで何も返さないのは失礼と言っていいと思いますわ」


「僕は……守られている?」


「外に出るのが怖いのは仕方のない事。ですがそのせいで窓すら開けず空気の悪い部屋に閉じこもるのはよろしくありません。日に一度でも構いませんのでこうやってお部屋の窓を開けて外を眺めるのも良いのではありませんか? もしも一人で外を見るのが怖いのならば信のおける者をお呼びになればよろしいのですわ。ルーカス様には信のおける者はこの屋敷に一人もおりませんの?」


「……いる……皆の事は、信じてる」


「その言葉、皆に聞かせて差し上げてください。きっと喜びますわよ」


 ふふん、と悪役令嬢そのもののような笑みを浮かべてみた所、ルーカス様は目を丸くしてわたくしを見て、その後クスクスと小さいながらも楽しそうに笑った。

誤字報告を受けましたが「こんなにも温かく美しい」の「温かく」はイザヴェル的に気温の暖かさではなく「世界って優しいのよ」の意味合いの温かいなので私の中では「温かく」で正解です。

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