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学園へ行きましょう③

 学園内を見て回り、少しずつ思い出したイベントの数々はレンがメモを取り記録に残してくれていた。


 ほとんどが断片的な、ゲーム内ではご褒美スチルと呼ばれていた部分的に切り取られた絵だけが浮かぶ事が多かった。


 だけど時々ヒロインと攻略対象者の会話の一部だったり部分的なシーンだったりを思い出した。


 アーレン様にヒロインは「人と会う事に緊張を覚えるのは当然です。恥じる必要はありません」と言うシーンがあった。


 ゲーム内でのアーレン様は婚約者であるイザヴェルとは今のわたくし達のような関係になく、あくまで政略結婚の相手という立場であり、アーレン様にはイザヴェルを愛する気持ちがないという設定だった為にヒロインのその言葉に感動して心惹かれていくのだが、レンにその事を伝えたら「え? それのどこに感動する要素があった? 俺は既にベルに素敵すぎる言葉をもらっているけど?」と首を傾げられた。


 レンと初めて会った時


「人が怖い。だけど僕は王子だから怖がってちゃいけないんだ」


 と半泣きで震えるレンにわたくしが


「王子だからって怖がっちゃいけない決まりなんかないわ。怖くたっていいじゃない。何がいけないの? わたくしだって怖い物が沢山あるわ。だけどそれを怖いって人に言わないだけ。心の中で怖いって思ったっていいのよ。だって怖いものはどうしたって怖いのだから」


 と告げたのだ。


「君も怖いものがあるの?」


 と問われ


「あるわ。虫に蛇に蛙に蜥蜴でしょ? お化けも、眠る時の一人ぼっちの真っ暗な部屋も、知らない人ばかりの場所も怖いわ。だけどわたくし公爵令嬢でしょ? 怖いって顔しちゃいけないってお父様やお母様に言われているの。弱みを見せてはいけないのですって。だからね、怖いなぁって思った時はそれを睨む事に決めているの。わたくし怖くありませんわ! って顔して睨んでやるのよ。そうしたらあっちの方がわたくしを怖がって逃げて行ってくれるような気がして」


 と言うとレンが


「君って強いんだね」


 と笑った。


 その笑顔がとても綺麗でわたくしはレンを好きになったのだけれど、レンもわたくしの言葉でわたくしを好きになったのだと後から聞かされてとても恥ずかしくなったものだった。



 学園を回っていて気付いたのだが、わたくしが今のところしっかりと思い出せるのは出会いイベントと呼ばれる攻略対象者とヒロインが出会いを果たすイベントのみのようだ。


 大講堂へと向かう途中で思い出したのもやはり出会いイベント。


 皆で入学式が行われる大講堂へと向かう途中で1人だけ道に迷うヒロインと、入学式をサボろうとしていた侯爵令息ルーカス・ジェロニカ様が出会う。


「道に迷うって正気?」とヒロインを笑うルーカス様と膨れっ面になるヒロイン。


 ルーカス様は所謂チョロいと言われる好感度がグングンと上がりやすいキャラで、ヒロインの膨れっ面を見てヒロインへの好意を抱く。


 ゲームをしていた時は何とも思わなかったが、何故皆で移動しているのに道に迷うのだろうか? 故意なのか? 意図的に迷ってるのか? それともヒロインは致命的な程に迂闊者なのだろうか?


「ルーカスか……」


 ルーカス様の名を出したらレンは何やら考え込んだ顔をして黙った。


 わたくしはルーカス様とはお会いした事がない為この世界でのルーカス様がどのような方なのか存じ上げない。


「ルーカス様とお知り合いですか?」


「知っては、いるな……だが……ルーカスは恐らくこの学園に入学してくる事はない、と思う」


「え? どうして?」


「ルーカスは八歳の頃に誘拐されて殺されかけた事があって、それ以来屋敷から一度も出られなくなってしまったんだ」


「まぁ……それは……」


 とても懐いていた乳母の女が金に目がくらみルーカス様を屋敷の外へと連れ出して誘拐犯に引渡し、乳母は口封じの為にルーカス様の目の前で殺され、ルーカス様は一週間程監禁生活を送り、身代金引渡しの際に騎士団に囲まれている事に気付いた誘拐犯により殺されそうになったが何とか無事に奪還。


 その件が大きなトラウマとなりルーカス様は一時期声すら出ない程だったが、今ではごく身近な者達限定でなら会話も出来るようになったものの未だに屋敷の外に出る事が出来ないのだという。


「心の傷が深いのですわね……何と申し上げたらいいのか……お気の毒なんて軽々しく言っていいものでもありませんし……」


「その事件が起きるまでは俺とルーカスは城でよく遊んでいたんだ……今でも時々会いに行くが」


 ゲーム内でのルーカス様は少々怠け癖があるもののとても朗らかで元気な少年といった印象の方だったが、現実のルーカス様は未だに心の傷に苦しむ気の毒過ぎる身の上のお方だった。


「何かお力になれる事があればいいのですが……」


「……今度会いに行くのだが、一緒に行ってみる?」


「わたくしが突然行って驚かせてしまいませんか?」


「俺の婚約者だから会ってみたいとは言っていたんだ……でも、その、俺の方がルーカスと会わせたくなくて、だな……」


「まぁ! どうして?!」


「その、ルーカスは……良い男だから……ベルが、好きになってしまうんじゃないかと、思って……」


 確かにルーカス様の容姿はゲームの通りならばとても美しいのだと思うけれど、彼を好きになる事はないと思う。


「わたくしの好きな人は、レンですわよ?」


「それは分かってる……でもそれとこれとは違うというか……」


 レンの意外な一面が見れてわたくしの心は少しだけキュンとしましたのよ、内緒ですけれど。

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