デビュタントですわ Part2
少しのイザコザはあったが無事に会場入りしたわたくしの元へレンがやって来た。
レンも本日がデビュタントなので白の礼服を着ている。
「良く似合っている...綺麗だ」
「ふふ、ありがとうございます」
差し出された腕にそっと手を添えてレンの隣に並び立ち会場内へと進んでいくと目の前にアリシアが現れた。
「あ、あの...踊ってくれますよね?」
「...何を巫山戯た事を」
「1曲だけでいいんです!お願いします」
「死んでも嫌だ」
「...アリシア様?」
わたくしが声を掛けるとアリシアは鋭い目付きでこちらを見た。
「何でお前が声を掛けるんだ!」としっかりと顔に書いてある。
「ダンスを申し込みたければダンスの時間に申し込むのが筋と言うものですわ。まだ陛下へのご挨拶も済ませておりませんのに随分と気の早いお話ではございませんこと?」
「はぁ?!ダンスが先でしょ?!」
「おかしな事を仰るのね。陛下へのご挨拶よりもダンスが先だなんて、そんな事ある訳がございませんでしょ?ね、レン?」
「その通りだ」
「な、何で?ダンスの後に挨拶でしょ?!だってゲームじゃそうだったじゃん!」
間違いなく転生者か何かだと思っていたけれど、本人の口からハッキリと「ゲーム」の言葉を聞くともう溜息しか出ない。
確かにゲームを元にした世界なのだろうと思うがこの世界できちんと生きていれば色々な事がゲームとは違うのだと分かるはずなのにどうしてそれが分からないのだろう?
「行こう」
レンに促されてその場を去った。
アリシアが追ってくる事はなかった。
*
暫しの歓談の後陛下が王妃様と共に会場入りを果たした。
この良き日を祝う言葉を述べられた後、デビューを果たす者達の名が呼ばれ陛下より1人1人に声が掛けられる。
わたくしはレンの婚約者である為レンに伴われて陛下の元へと向かった。
「イザヴェルももうデビューの歳か。早いものだな」
「アーレンの婚約者になった頃はとっても可愛らしい女の子だったけれど、もうすっかりレディね」
「今後ともアーレンを頼んだぞ、イザヴェル。イザヴェルがいないとどうにも役に立たない息子だからな、こいつは」
「ふふふ、そうね。あなたがいなければこの子は王子として立つ事も出来ないでしょうから、これからもアーレンを支えてあげてちょうだい」
家族のように接していただいているわたくしはお祝いの言葉というよりはちょっとした世間話のような言葉をいただいたけれど、それだけレンの婚約者として認めていただけているのだと思うと嬉しい。
その後次々とデビューを迎える子息令嬢が陛下にお言葉をいただき、アリシアも何かお言葉をいただいていたようだった。
全ての者へ祝いの言葉を掛けた陛下が「それでは皆も楽しむが良い」と言うと会場隅に控えていた楽団が中央ホール脇に置かれた椅子へと座り音楽が鳴り始めた。
ダンスの始まりである。
デビュタントを迎える王族がいる場合、ダンスの始まりはその王族が行う。
当然わたくしとレンがその役目を担っており、皆が見つめる中わたくしとレンはファーストダンスを踊った。
「デビューを終えたのだからもう結婚も可能だ!」
「そうですわね」
「では結婚の準備をしても」
「いいわけがありませんでしょ?卒業まで待つお約束ですわよ?」
「だが...」
「わたくしはどこにも逃げませんから、結婚式はゆっくりと準備いたしましょ?ね?」
「はぁ、分かった...でも籍だけは入れても良いだろ?」
「どうしてそんなに焦るのです?わたくしが逃げるとでも思っていらっしゃるのかしら?」
「ベルは自分がどれだけ魅力的なのかをもっと自覚すべきだ」
「わたくし全くモテませんわよ?」
「そう思ってるのはベルだけだ」
ダンスを踊りながらこんな会話がなされていたなんて誰も思わないだろう。
わたくし達のダンスが終わるとデビューを迎えた者達が一斉にホールに流れ込んで来て各々踊り始めた。
わたくし達はその輪から外れルーカス様のいるお部屋へと向かった。
「デビューおめでとうございます、ルーカス様」
「おめでとう」
「ありがとう!アーレンもイザヴェル嬢もおめでとう」
「ありがとうございます」
「うん、ありがとう」
沢山の人に囲まれたからかルーカス様の顔色は少し青白い。
「具合の方は大丈夫ですの?」
「...情けないよね。やっぱりまだ人が多い場所は慣れなくて、さっきまでみっともない程に体が震えていたよ」
「情けない等とは思いませんわよ。この場に来られただけでも大きな一歩ですわ!」
「そ、そうかな?」
「そうですわよ!ね、レン?」
「そうだな」
「そっか、ありがとう」
緊張が解けてふんわりとした笑みを浮かべたルーカス様は天使のようにお可愛らしかった。