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デビュタントですわ

早いもので4月となりましたわ。


4月といえば春の社交シーズンでございます。


社交シーズンは年に2回、春と秋がこの世界の常識でございますわ。


夏は暑すぎてドレスなどを着てうふふオホホとやっている余裕などございませんし、冬は雪が降るために移動が困難になる事が多い為基本的に開かれる事はございませんの。


春の社交シーズンの幕開けはデビュタントでございますわ。


その年に16歳を迎える貴族の子供達が大人の仲間入りを果たす通過儀礼でございますが、近年は「如何に自分達の財力を示せるか」を競う風潮があるようです。


馬鹿げているとは思いますが、真っ白いドレスや礼服しか身に付けられないデビューを迎える我が子達を如何に目立たせ、際立たせるかに命を燃やす親達が一定数いるそうで、白地に白糸の刺繍を施し目を凝らせば素晴らしい刺繍が美しいドレスを作ったり、白いレースを幾重にも重ねる事でふんわりとしながらも緩やかに動きのあるドレスを生み出したり、まだこの国では見た事のないデザインの物を作らせたりと頑張っておられるようですわ。


わたくしは、というより我が家はそこには参戦致しておりません。


わたくしに似合うデザインで、肌触りの良い生地を使用したドレスを身に纏いますわ。


そしてやって来たデビュタントの日。


両親に贈られたドレスと靴、ネックレスを身に纏い、レンに贈られたピアスを付け、髪は右側だけを編み上げ他は下ろした形にしております。


既婚者は髪を全て纏めて首筋を見せるのですが、わたくしまだ既婚者ではありませんので髪型は自由です。



城の大広間、別名『白百合の間』と呼ばれる壁も天井も白壁の大広間にてデビュタントは開かれる。


本来の夜会などであれば爵位順の登場となるがこのデビュタントでは来場順に会場入りする。


受付で招待状を見せると髪に王家で育てられた白い花が飾られる。


これが髪飾りとなる為髪にだけは飾りを付けて来ないのがデビュタントのルールである。


のだが、わたくしが来た時、受付で何やらもめる声が聞こえた。


「どうして薔薇じゃないの?!」


その声に聞き覚えしかなく頭痛がする思いだった。


案の定声の主はアリシアだった。


どうしてあの子は何処にいても問題を起こすのかしら?


近くにいた者に訊ねると、今回のデビュタントでの花飾りは王妃様が育てたデイジーのようだ。


花弁の数が多くコロンとした丸いボンボンのような愛らしいデイジーで、この国では大変珍しい種類になる。


白いデイジーの花言葉は「無邪気」。


本当は白薔薇を花飾りにする予定だったのだが、デビュタント1ヶ月前に薔薇の木の病気が発生してしまい花が蕾のまま枯れるという事態が起こってしまった為にデイジーへと変更となった。


その事は広く知られてはいないが「そうらしいわよ」程度の噂として広まっている為ここに来る者達は知っているだろうと思っていたのだがアリシアは知らなかったようだ。


生きている植物なので仕方がない事だと思うのだけれど...なんて事を考えていたらこのタイミングでイベントを思い出した。


デビュタントと言えばイベントが起きる事は分かっていてもどうもその内容はハッキリと思い出せなかったのだが、思い出した今、アリシアが白薔薇ではない事で憤慨する理由が分かった。


デビュタントイベントでは白薔薇にちょっとした役割があった。別の花でも問題はないような事なのだけれど。


思い出したデビュタントイベントはこうだ。


白薔薇を髪に挿して会場入りしたヒロインは攻略対象者達に順番にダンスに誘われる。


ポラリティ様も何故か会場におり、攻略対象者達全員とダンスを踊る事となるヒロイン。


それを見て面白くないと感じるのは悪役令嬢イザヴェル、即ちわたくしだ。


アーレン様とのダンスが攻略対象者達と踊る最後のダンスになるのだが、その直後イザヴェルはヒロインにわざとぶつかる。


その際に白薔薇の花飾りが落ちてしまうのだが、それをイザヴェルは踏み潰してしまう。


ダンスの後に国王への挨拶(デビュタントの挨拶)が控えているヒロインは顔面蒼白。


デビュタントでいただく花飾りはデビュタント終了まで身に纏うのがルールである(という事にゲーム内ではなっていた)為、花飾りを台無しにされたヒロインは途方に暮れる。


そこに現れるのがその時点で最も好感度の高い攻略対象者。


青ざめて涙ぐむヒロインに近付きキャンディシュシュという、前世で入学式の立て看板などに飾られていたりする薄い紙で出来た紙花(ティッシュなどでも作れるあの花ですわ!お分かりになります?)にそっくりな花をヒロインの髪に挿すのだ。


キャンディシュシュの花言葉は「密かなる想い」「淡い初恋」。


キャンディシュシュの花に自分の想いを込めた攻略対象者(花を贈ったキャラ限定)の甘く切ない表情がご褒美スチルとなっていた。


アーレン様のスチルは優しい目元が印象的で、ルーカス様のスチルは頬を染めた満面の笑みで愛らしさが分かりやすく表現されていた。


ガルゴリー様のスチルは少し照れたようなはにかみのある笑顔のもので、ポラリティ様のスチルはキャンディシュシュの花に口付けを落とす大人の色気を醸し出す一枚となっていた。


因みに贈られたキャンディシュシュの花は魅力をグンッと大きく上げてくれるアイテムでもあったはずだ。


まあ、わたくしはアリシアに絡む気は毛頭ございませんし、イベントは起きないだろう。


今回のデビュタントにはわたくし、レン、ルーカス様(陛下への挨拶が終わると休憩室に籠られる)、ガルゴリー様は来るがポラリティ様は来ない。


デビュタントに来るご令嬢のエスコートとして来る以外ポラリティ様がこの場に来る必要はないのだから来るはずがない。


あの方はマリアリリィ様のエスコートしかなさらないので、デビューを終えたマリアリリィ様がこの場に何か用がありお越しにならない限りやって来る事はない。


それより何より、わたくし、この世界に転生しイザヴェルとして、1人の貴族令嬢として生きてきて学んだ知識を持っておりますから思うのですけれど、デビュタントのゲーム内での流れ、おかしくありません?!


受付で花飾りをいただき会場入りするまでは分かりますわ、今回もそうですもの。


ですが!


会場入りして直ぐに攻略対象者達とのダンスっておかしくありません?!


ダンスはどう考えてみても陛下へのご挨拶が済んでからではございませんこと?!


どこの世界に自分達が楽しんだ後に陛下にご挨拶するなんて流れがございますの?!


この世界本来の流れでしたらイザヴェルに花飾りを踏み潰されようがヒロインは困る事はございませんわよ!


ダンス中に花飾りが落ちてしまって他者に踏まれてしまうなんて事はデビュタントではよく見る光景なのだと聞いておりますもの。


ゲームを作った方々はこういった流れを考えずにイベントありきでゲームを進行させて行ったのでしょうけれど、わたくしと致しましてはこの場にその方々がいらっしゃったら一言物申したい所ですわ!

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