学園へ行きましょう①
婚約解消の申し出以降、殿下は前にも増してわたくしにベッタリになってしまいました。
どういう事でしょうか?
週一の茶会は何故か二日に一度になり(我が家に殿下がやって来る形で)、会う度に「ベル、可愛い」、「ベル、大好きだ」、「ベル、今すぐ結婚しよう」と愛を囁かれる日々。
結婚は最低でも十六歳にならねば無理な話なのでお断りしてますが、断る度に泣かれるので困っております。
本当に何なのでしょうか?
正直嬉しくないはずがなく、かといって学園に入学してしまうと乙女ゲームが開始してしまい、どうなってしまうのか未知の世界に突入する訳で、わたくしとしては複雑な所。
そして、前世を思い出し、この世界が乙女ゲームの世界だと分かった訳だが、大雑把な流れや登場人物の事は思い出せても、細かなイベント等が全く思い出せないという事が分かり、「実際にそこを見てみれば何か思い出すんじゃないか?」とのレンの提案で、本日わたくしとレンは見学という名目で学園へと行く事になった。
恋ラビのオープニングはイシュタリカ学園の外観を映し出す所から始まる。
小洒落た鉄製の門が開き、花弁が舞う中で、煉瓦造りの大きな校舎にズームインした所で、ゲームのタイトルである【恋する迷宮~激甘な恋をあなたと】の桃色の文字が浮かび上がり、ゲームがスタートを切る。
普通に考えてリアルな実写になった場合、人の顔が分からなくなるのでは? と前世のわたくしは転生系の小説等を読む度に思っていたのだが、転生してみて「これは分かるわ」と思ったものだ。
だってどう見てもそうとしか見えないのだ。
どういう仕組みなのかさっぱり分からないが、あのゲーム機の画面で見たままの顔が存在しているのだ、生身の人間として。
これは間違えようもない。
別にアニメーションではないのにそう見える不思議。
自分もそうなっているから、不思議すぎてもっと驚いてもいいのかもしれないが、転生したわたくしには、わたくしとして生きた記憶もあるものだから、特段不思議にも思えない。
だけどよく考えてみるとおかしいとは思う。
本当にどういう仕組みなのだろうか? 究明できるのならしてみたいものだ。
門をくぐってすぐ、わたくしの中にゲームの記憶が蘇った。
そう、オープニングイベントである。
恋ラビは、様々な攻略対象者と交流を深めつつ、最終的に一番好感度が高い攻略対象者と結ばれる形式のゲームで、お気に入りのキャラだけを攻略しようとした場合、他の攻略対象者達が邪魔になり、なかなか思うように好感度が上がらず、ちょっとイライラするゲームでもあった。
オープニングイベントはアーレン様限定イベントであり、入学してきたヒロインが一番初めに攻略対象者と接触するイベントでもある。
門を潜ったヒロインが、門のレールの溝にローファー型の靴のヒールが挟まって(普通挟まるのかしらね?)立ち往生している所に、通りかかったアーレン様が無言で手助けして、「気を付けろ」とだけ言い残し去って行く。
門を潜った段階で思い出したので、門付近を丹念に見てみたのだが、ヒールが挟まる程の幅のあるレールの溝なんて存在していなかった。
門を開閉する為の溝はあるにはあるが、一センチ程度の幅の、溝も浅いものなので挟まるはずがない。
だけど万が一を考えて、靴のヒールが挟まりそうな隙間がないかチェックしてみたのだが、綺麗に敷き詰められた石畳の道にはハイヒールのヒールすら挟まる隙間なんてなく、それが挟まるのだとしたらどんな奇跡が起きるのだろうかと問いたくなる程だった。
ローファータイプの靴のヒールは幅だけで五センチ程ある。前世にあった極細のピンヒールのようなはずもないので、それが挟まる事自体異常事態である、普通に考えて。
「ここで俺がヒロインを助ける? 絶対に有り得ないね、そんな状況。だって、俺なら絶対、あの馬車の昇降口(生徒用玄関の脇)まで馬車から降りないから、人を避ける為に!」
レンはそうドヤ顔で言い切ったし、わたくしもレンならば絶対に門の手前で馬車を降りる事はないだろうという確信があった。
極限まで人を避ける為、馬車移動の際は降りられる場所のギリギリまで絶対に馬車を降りる事はしないレンが、その日から通う、慣れてもいない学園に行って、わざわざ門付近で馬車を降りるはずがない。
わたくしが「ここで降りましょう」と強引に誘った場合は降りるだろうが、一人でならば絶対に降りない。断言出来る。
「オープニングイベント、起こりそうにありませんわね...…」
「俺しか登場しないイベントなのだったら絶対起きないだろうね」
乙女ゲームはレンの本質的な性格を加味されずに作られたのか、それともレンの性格が乙女ゲームのアーレン様とは異なっているのか...…?
あのゲームの中のアーレン様は、とにかく表情が乏しく、口数も少なく、笑顔を見れたら奇跡とすら言われる程の人物で、実際のレンも、わたくしの前以外ではあのアーレン様と大差ない無表情キャラでまかり通っているが、実際はコミュ障王子。
何が正しいのか最早分からない。
「断言出来る! 俺は絶対にヒロインと関わる事はない!」
「...…何だかわたくしもそういう気がしてきましたわ」