クリスマスデートですわ part2
美術館を堪能した後は少しだけ町を歩きレストランへ。
クリスマスカラーに染まる町並みは華やかで愛らしく、浮き足立った人々の顔も明るくキラキラとしていて素敵でしたわ。
こちらの世界ではスピーカーでクリスマスソングが流れるなんて事はありませんから音楽が欲しいなぁなんて思っておりましたけど、タイミングよくバイオリン弾きの男性がこちらの世界のクリスマスソングを弾き鳴らしており「そうそう、これこれ」と内心で思ったり。
クリスマスですからわたくし達だけが幸せなのも嫌でしたので、わたくしがよく寄付をしている孤児院へとお菓子とケーキを贈りましたわ。
去年贈った際に「サンタクロースの飾りの争奪戦が起きた」なんて聞いておりましたから、今年のケーキにはサンタの飾りを多めに飾ってもらうようにお願いしましたの。
マジパンや砂糖菓子の飾りって正直あまり美味しくありませんでしょ?
ですからクッキーにアイシングでサンタを描いてもらったり、飴細工でサンタを作ってもらったりと全て美味しく食べてもらえるように工夫も忘れておりませんわ。
クリスマスプレゼントはレンが用意してくださり、事前に「サンタさんへのお願い」として聞き出した品を綺麗にラッピングしてこっそりと届けてあるそうです。
女の子はぬいぐるみやお人形が多く、男の子はボールや木剣(模擬剣)の類が多かったと聞き及んでおります。
皆が幸せな気持ちでクリスマスを過ごせていると嬉しいですわね。
*
レストランに到着致しましたわ。
本日のレストランは何と王妃様(レンのお母様)の弟であるロバート様がシェフをされているお店でございまして、一見するとレストランには見えない普通の民家でございます。
所謂隠れ家レストランという感じですわ。
扉を開けるとテーブルが一席だけあり、完全予約制なのだと分かります。
蝋燭の炎の柔らかくも揺るぎのある落ち着いた空間。
蝋燭の明かりでは足りない分は壁の間接照明で補われており、部屋全体がオレンジの淡い光で満たされております。
「いらっしゃい、よく来たね」
どことなくレンと似た面立ちの男性がにこやかに迎え入れてくださりました。
この方がロバート様ですわ。
髪は全てコック帽の中に収まっている為に髪色は分かりませんけれど、瞳の色が王妃様と同じ淡いブルーですわね。
人前で無表情な事が多いレンですけれど、ロバート様の前ではちゃんと表情がありますので気を許しているのだと分かります。
「今日はゆっくりと楽しんで」
そう言い残すと隣の部屋へと消えて行かれました。
「お隣がキッチンでしょうか?」
「うん、そうだよ」
「まさか、王妃様の弟であるロバート様がこのようなレストランを開いておられるとは知りませんでしたわ」
「母上の実家である侯爵家は母上の兄君が継いでおられて、ロバート叔父さんは好きな事をして生きていくと早くに家を出たそうなんだよ。暫く海外で色んな事を経験したそうでね、その中でも料理に夢中になった結果、3年前にこの店を開いたって訳」
「そうなのですね」
「完全予約制の店でね、去年は予約が取れなかったんだよ」
「人気店なのですわね、流石ですわ」
そんな事を話していたらアミューズが運ばれてきた。
アミューズとは所謂お通しのような物。
今回のアミューズはカナッペ。
丸いクラッカーの上に生ハムとクリームチーズ、チーズとピクルスとミニトマト、オリーブとサーモンとサワークリームの乗った物が3つお皿に並んでいる。
アミューズは食前酒用のおつまみの意味もあるのだが、わたくしもレンもまだお酒は飲まない為にそのまま楽しむ。
1口サイズのカナッペなのであっという間に平らげてしまった。
すぐさまオードブルが運ばれて来た。
オードブルは前菜、即ちメインではない料理の事で、メインへと行く前段階の食欲を刺激する料理の事である。
今回のオードブルは帆立のカルパッチョ。
薄く切られて綺麗に並べられた帆立の上にはトマトとバジルで実にクリスマスらしい彩りになっていて目にも鮮やかだ。
ソースにはオレンジが爽やかに香っている。
「美味しいですわ。オレンジが爽やかで」
「カルパッチョは正直苦手だけど、これはイけるな」
次に運ばれて来たのはスープ。
綺麗な薄緑色のスープの上に鮮やかなオレンジ色のクリームが彩りを添えている。
「ブロッコリーと南瓜のポタージュです」
緑色はブロッコリー、オレンジ色は南瓜なのだろう。
初めての組み合わせに心が踊る。
ポタージュにしてはさらりとした口当たりなのに、南瓜の部分を一緒にすると途端に濃厚さと甘みが増す。
「面白いですわ!そして美味しい!」
「アッサリとした口当たりなのに南瓜が加わると途端に味が変わるだけじゃなく深みが増す。これは良い」
レンもお気に召したらしい。
スープの後はポワソンが運ばれて来た。
ポワソンとは魚介類の料理の事だ。
「海老と白身魚のミルフィーユでございます」
中央部分が窪んだ丸い白皿に美しく盛り付けられた白身魚と野菜と海老の層。
ソースがムースというのかメレンゲのようなフワフワとした物になっており、雲の上に浮かんでいるかのような様相を醸し出している。
「崩してしまうのが勿体ないですわね」
「でも崩さないと食べられないからな」
レンが豪快にナイフとフォークで美しいミルフィーユを崩し口に運んだ。
「うん、美味しい!ベルも早く食べてみるといい」
最下層の白身魚を切り分け、ソースと絡めて口に運ぶ。
パリパリに焼かれた皮が実に香ばしく、そこに絡まる少し濃厚で複雑な味のソースが白身魚の淡白な味に華を咲かせている。
海老はプリプリとして食感、味共に素晴らしく、そこにソースが加わる事でより味に深みを与えてくれる。
ソルベは三種のベリーとメロンのシャーベット。
これもクリスマスをイメージしたのだろう。
甘いメロンのシャーベットと酸味の強いベリーのシャーベットがとても美味しい。
「いよいよアントレですわね」
待ちに待ったお肉料理に心が弾む。
詳細な描写が欲しいと前にご指摘いただいたのを思い出して何故かクリスマスディナーをくどくない程度に細かく書いてみようと思った結果、こんな感じになりました( ̄▽ ̄;)
これが良いのか悪いのか、私らしいのからしくないのかサッパリですが、こういう回もありかな?
 




